コラム

MLB「球場ボイコット」の背景にある両党派双方の思惑

2021年04月07日(水)11時00分

こうした動きに対して、トランプ前大統領は「代替球場におけるオールスター戦のボイコット」を呼びかけました。また議会共和党のボスとも言えるミッチ・マコネル上院院内総務は「大企業の党派的行動を許すな」と猛抗議を行っています。まるで野球界が「民主党」対「共和党」の分断の構図に巻き込まれてしまったように見えますが、事態はそう単純ではありません。

まず、共和党の側ですが、保守派のケンプ知事が、フロリダにいるトランプと結託して、超保守的な法改正に突っ走ったように見えます。ですが、ケンプ知事とトランプの関係は決して良くありません。特に2020年11月から21年1月の一連の「選挙結果」をケンプ知事が「最後は認めた」ことに対するトランプの怒りは収まっていないというのです。

トランプは、その報復として22年の知事選において、事前の予備選でケンプ知事への刺客を送るという説もありますし、仮にケンプ氏が候補になってもトランプ支持者は棄権するという声もあるのです。そうした事態はケンプ氏としては、何としても回避したいわけです。

公民権運動以前の暗黒法に戻すという評価のある今回の法改正ですが、ケンプ知事の立場としては、単純に自分が民主党に勝ちたいだけでなく、トランプ派の跋扈を抑え、そのまま支持に取り込むための政治的な苦肉の策という見方もあるのです。

民主側も企業の動きを警戒

一方で、州の民主党の側も単純ではありません。2018年の知事選でケンプ氏に惜敗し、2022年には雪辱を期しての出馬が期待されているステイシー・エブラムズ氏などは、「大企業による抗議行動が加熱して、ジョージア州の経済や雇用の足を引っ張ると、民主党の党勢拡大にはマイナスになる」として、コカコーラなどの動きには警戒感を隠していません。

では、MLBの立場はどうかというと、昨年のBLM運動の盛り上がりに対して、野球界の反応が鈍かったことがミレニアル世代の「野球離れ」を加速したという声もある中での判断と言われています。つまり、「今度こそ、迅速に明確なメッセージを出さないと」という焦りがあるというわけです。

アメリカ社会は、バイデン政権の主導の下で新型コロナのワクチン接種を、猛烈なスピードで進めています。そのなかで左右対立は水面下に隠れているような印象があります。今回のオールスター戦をめぐる騒動が、実際にゲームが行われる7月までの間どう展開するかは、そうした隠れた政局の動向を反映することになりそうです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:「ハリー・ポッター」を見いだした編集者に

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story