コラム

9・11の英雄ジュリアーニは、なぜトランプと手を組んだのか?

2020年12月08日(火)16時45分

1つは、2008年の大統領選挙に際して、一時は本命と言われながらあっけなく予備選で脱落したという経験です。当時の共和党内では、「東部の市長として銃規制に賛成し、妊娠中絶を容認してきたジュリアーニは真正保守ではない」というバッシングがあり、これを避けるために保守州での選挙戦を回避した戦術が失敗して無残な敗北を喫したのでした。その怨念から「保守ポピュリズムの闘士」として振る舞うことで、仕返しをしていたのかもしれません。

2つ目は、さらに古い話ですが2000年の上院議員選挙の屈辱です。市長として治安回復を行った実績を引っ提げて連邦上院議員に出馬しようとしたのですが、当時2番目の妻であったドナ・ハノーバー氏との関係が破綻する中で、後に3番目の夫人となるジュディス・ネイサン氏との交際が明らかになると、メディアから猛烈なバッシングを浴びて出馬断念に追い込まれたのでした。もしかすると、その時に受けた屈辱の記憶が、何度も離婚と結婚を繰り返しながら批判を退けてきたトランプへの親近感を覚えさせたのかもしれません。

3点目は、国際的な活動についてです。保守系のコンサルとして、テロ対策について各国政府にアドバイスを続けるなかで、ジュリアーニのコンサルとしての活動が、米国の安全保障戦略に抵触したケースがあると言われています。トランプの顧問になってからは、ウクライナとの関係で暗躍したという説がありますが、もしかしたらそれ以前にも米国の国務省や国税などとの間で対立を抱えていたために、トランプ政権に接近して自分の訴追を逃れようという動機があったかもしれません。

4番目はカネの問題です。後にジュディス氏とも離婚して財産分与に応じたジュリアーニは、慢性的に「金欠状態」だという説があります。トランプの顧問を務めることで、顧問料や成功報酬だけでなく、将来にわたってのメディアでの活躍など、経済的利益を意識した可能性はあると思われます。

現時点でのジュリアーニは、何よりも健康を回復しなくてはならないし、多くの濃厚接触者を作ったという批判を受け止めなくてはなりません。その上で、あくまでニューヨークの名市長として歴史に記憶されるには、トランプとの関係を清算する必要があると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替政策のタイミング、手段について述べることできな

ビジネス

都区部CPI4月は1.6%上昇、高校の授業料無償化

ビジネス

米スナップ、第1四半期は売上高が予想超え 株価25

ビジネス

ロイターネクスト:米経済は好調、中国過剰生産対応へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story