コラム

スタートした政権移行作業、トランプはどうして認めたのか?

2020年11月26日(木)15時00分

ホワイトハウスの感謝祭行事に出席したトランプとメラニア夫人(24日) Hannah Mckay-REUTERS

<移行業務を担当する政府調達局のSOSを受けてしぶしぶ作業の進行は認めたが、相変わらず大統領選の敗北は認めていない>

トランプ大統領からバイデン次期大統領への政権移行作業がスタートしました。と言ってもトランプが「落選を認めた」わけではないようで、敗北宣言は行っていませんし、相変わらず次期政権と協議しつつ政策を行う姿勢は見せていません。各州での訴訟戦術については、どんどん却下されていますが相変わらず続ける構えです。

ですが、政権移行(transition)の手続きは開始され、トランプもこれを認めざるを得ないということになりました。どういうことかというと、事務方がSOSを発したからです。舞台は、GSA(General Service Administration:連邦政府一般調達局とか、共通役務庁などと訳される)という部局です。

このGSAというのは、連邦政府の中の最も地味な役所と言ってよく、各省庁に共通する事務を所轄しています。大きな柱は2つあって、1つは全国に分散している連邦政府の建物の管理事務、もう1つは各省庁の共同調達事務です。この「共同調達」の中身ですが、具体的には給与計算や旅費精算に加えて、政府関連の車両の管理とサイバー関連の標準化などです。

ちなみに、実際にやっているのは車両21万台の管理とか、政府職員100万人の給与計算といったスケールですから、その業務スタイルをそのまま日本が模倣しても、どれほどの合理化になるかは分かりません。ですが、トルーマン大統領が設置を指示した際の初心、つまり肥大化した連邦政府における共通部分の合理化という発想は「縦割り行政」打破の参考にはなると思います。

トランプ派からの妨害

このGSAにしてみれば、大統領選が終わり、当選確実が出て3週間が経過した現時点では、法律の定める政権移行手続きが「スタートしていないと困る」のです。例えば、情報管理上の実務として、次期大統領に機密情報へのクリアランスを与えるとか、政権移行作業の実務に関わる法律で定められた予算を執行するなどの業務は、このGSAが主導することが法律に明記されているからです。

GSAはあくまで「非政治的な立場」でそのように行動しようとしたところ、トランプ派からの妨害や脅迫にあって困っていたのでした。そこでエミリー・マーフィー長官がSOSを発したところ、トランプ大統領は珍しくと言いますか、なし崩し的にと言いますか、マーフィー長官の判断、つまり政権移行手続きの実務を開始することを認めたのです。

これを受けて、バイデンは「大統領への毎日のブリーフィング」を受けることが可能になり、その他の引き継ぎ業務についても開始することができるようです。では、どうして「絶対に負けを認めない」トランプが、このGSAの主張には屈したのかというと、それは「選挙後にはこうしたステップで政権移行を進めるように」という実務が法律で決まっていて、それには逆らえないということのようです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナは単なる資源提供国にならず、ゼレンスキー

ワールド

ロシア、トランプ氏称賛 「ウクライナ戦争の主因はN

ビジネス

欧州、銀行規制簡素化の検討必要 過度な規制回避を=

ビジネス

中日両国は政策の意思疎通強化すべき、王商務相が経済
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 2
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「20歳若返る」日常の習慣
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 5
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    1月を最後に「戦場から消えた」北朝鮮兵たち...ロシ…
  • 8
    祝賀ムードのロシアも、トランプに「見捨てられた」…
  • 9
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 2
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    【徹底解説】米国際開発庁(USAID)とは? 設立背景…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 9
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story