コラム

金正恩「ワシントン訪問」に現実味はあるか

2019年07月02日(火)19時00分

トランプは金正恩委員長を「ホワイトハウスに招待する」と言うが Kevin Lamarque-REUTERS

<実際に金正恩が訪米した際のアメリカメディアや世論の反応を考えれば、ワシントン訪問は全く非現実的>

G20参加直後のトランプ大統領の予定は、当初は韓国訪問だけの計画でした。それが、まず軍事境界線上の板門店視察ということになり、結果的には自身が境界線を越えて金正恩(キム・ジョンウン)・朝鮮労働党委員長と握手して見せ、「第3回米朝首脳会談」に発展しました。

そうではあるのですが、別に核とミサイル放棄への道筋が見えたわけではなく、単に実務者協議を行うという計画と、次の首脳会談が行われることが示唆されただけでした。

ただ、今回の会談を受けて、「次は金正恩委員長のワシントン訪問か?」という期待感が出てきているのは事実です。実際にトランプ大統領は、ワシントン招聘というアイディアを何度か表明しているわけですし、期待感が出てくるのは不思議ではありません。

ですが、冷静に考えてみれば、金正恩ワシントン訪問というのは、全く非現実的と思われます。

3つ指摘したいと思います。

1つ目は、アメリカのメディアや野党・民主党の動向です。トランプがアジアで金正恩との会談を行うということならば、アメリカの世論は「遠いアジアの問題を、アメリカの大統領が解決に行く」という方向性と距離感で受け止めます。

ところが、本当に金正恩がアメリカに、しかも政治の街である首都ワシントンに来るとなると話は全く別です。リベラル系のCNNだけでなく、保守系のFOXニュースなども、あらためて北朝鮮の「王朝三代」について詳細な歴史ドキュメントを放映するでしょうし、そこでは強制収用や粛清、拉致、麻薬や武器の闇取引などの暗部も容赦なく報じるでしょう。

民主党にいたっては、今回の会談を受けて多くの大統領候補が「冷血な独裁者と安易な握手をするのは絶対に許せない」とか「これ以上、大統領が国務省と国防総省を無視して勝手な外交を行うのはストップすべき」など「激怒モード」になっています。共和党の本流の中にあるのも、同じような思いです。

そんなわけで、仮に金正恩がワシントンに来た場合、トランプ大統領の期待するような「政治ショー」としての効果よりも、むしろマイナスの印象をアメリカの政界や世論に与える可能性があるのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU、ウクライナ支援で2案提示 ロ凍結資産活用もし

ワールド

トランプ政権、ニューオーリンズで不法移民取り締まり

ビジネス

米9月製造業生産は横ばい、輸入関税の影響で抑制続く

ワールド

イスラエル、新たに遺体受け取り ラファ検問所近く開
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 9
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story