コラム

二大政党制が日本で根付かないのは「残念なリベラル」のせいなのか

2019年06月25日(火)17時10分

では、それぞれに経済不況の中で政権が行き詰まり、これに対抗した政策を掲げた勢力が政権を奪取したのかというと、そうではありませんでした。細川政権も、鳩山政権も不況脱出を最優先課題として支持を受けたのではありません。

そうではなくて、当時の有権者は「不況への不安感」を抱える中で、具体的な「政策の変更」ではなく、与党を罰して下野させ、野党による人心一新に期待して投票をしたのです。

考えてみれば無責任とも言えますが、なぜこうした投票行動が起きたのでしょうか。そこには構造的な理由があります。日本の社会は、非常に単純化して言えば、終身雇用の企業や団体に帰属している「給与所得者」と、農業や商工業などの「自営業者」に分かれています。

このうち「給与所得者」の心理は基本的に納税者という意識です。ですから、自分の納めた税金が無駄に使われることを強く嫌います。そこで、政権与党にスキャンダルが出れば、懲罰を志向します。その一方で、自分の現在と将来の生活については、国レベルでの政策変更によって影響を受けるよりも、社内での昇進とか、会社の業績の浮沈の方が大きな影響があるわけです。ということは、投票行動が自分に与える影響は、切羽詰まったものではなく、印象論などに乗って投票先を変更する柔軟度があるわけです。

一方で、自営業の場合は良くも悪くも政策の影響をダイレクトに受けます。ですが、経済が不調となる中で、ある政権が自分たちに十分な支援をしてくれなければ、別の政権(や派閥)にスイッチすることを真剣に考えます。

ですから各政党としては、給与所得者が多数の選挙区ではイメージ選挙を、自営業が主である選挙区では利益誘導を、という姿勢になります。与野党ともに、この傾向は変わりませんし、その結果として、理念的な、あるいは全国を一貫するような二大政党の結集軸は生まれにくいと言えるでしょう。

これに対する新しい動きも出てきています。例えば、「大阪維新」の場合は自民党と共産党を敵に回すことで「右派の小さな政府論」を政治勢力化することに成功しています。また「れいわ新選組」の主張は日本では珍しい「都市型の大きな政府論」を掲げて格差問題などをテーマにしています。ですが、こうした動きは左右に寄りすぎていて、傷んだ日本経済を立て直す処方箋にはなり得ていません。

日本政治の現状は「安倍一強」ですが、政界が野党を巻き込んだ形で再編され、実現可能な2つの対立軸に収斂されていくことが望まれます。そうでなくては、経済の立て直しや、人口構成への対策などへの国民的な合意形成はできません。そのためには新たな、そして今度こそ機能する二大政党制を構築しなければならないと考えます。

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※7月2日号(6月25日発売)は「残念なリベラルの処方箋」特集。日本でもアメリカでも「リベラル」はなぜ存在感を失うのか? 政権担当能力を示しきれない野党が復活する方法は? リベラル衰退の元凶に迫る。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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