コラム

水道法・入管法改正、なぜ野党の批判には説得力がないのか

2018年12月06日(木)16時00分

野党側からは「ブレーンを与党が独占している」から自分たちは「代案が出せない」などという弁解も聞こえてきますが、そのような人材の問題ではありません。そうではなくて現実を直視していない、つまり姿勢に問題があるのです。

水道問題の根幹は、地方の経済社会が疲弊して、老朽化した水道のインフラを維持したり更新したりする財源がないという問題です。また、移民問題の根幹は、建設、農林水産、中小企業の現場が人手不足で潰れそうになっているという問題です。

水道運営の広域化と民営化は、業者へ利益誘導しようというのではありません。財源がない中では、そのような効率化をしないと水道インフラが維持できないからです。最低賃金ギリギリで外国人技能実習生が働かされているのは、多くの受け入れ企業が悪質なのではなく、そこまでコストカットしないと、納入先の過酷な仕入額切り下げに対応できないからです。

それにも関わらず、野党の戦術は「データを出せ」とか「データが誤っている」と言って政府を非難したり、「水道は公共事業で民営化にはそぐわない」とか「技能実習生の失踪は問題だ」などというわかりきった原則論を繰り返すだけです。

原則を曲げよと言っているのではありません。原則が通用しない過酷な現実から目をそむけて、安全なところで原則論だけを言っていても全く説得力がない、そこに問題があるのです。

衰退する地方において、老朽化する水道インフラの維持や更新のために、どのような財源を引っ張ってくるのか、技能研修生に頼らざるを得ない業界が置かれているデフレ構造からどう脱却させるのか、現場を歩き、現場の苦悩を知り、その上で知恵を絞って「実現しうる解決策」を提案し続け、その「具体策を原則に適合するまで詰めて行く」、それが政治というものです。

そうした努力をせずに、いかにも都会的な世論に受けそうな「原則論」ばかりを、それも現実との乖離に目をつむって居丈高に叫び続ける。これでは「危機感に押され、問題を説明せずに制度改定を急ぐ」政権当局の方が、比較「まし」に見えてしまうのも仕方がありません。民主主義を破壊しているのは、野党も同じではないでしょうか。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ノボノルディスク、不可欠でない職種で採用凍結 競争

ワールド

ウクライナ南部ガス施設に攻撃、冬に向けロシアがエネ

ワールド

習主席、チベット訪問 就任後2度目 記念行事出席へ

ワールド

パレスチナ国家承認、米国民の過半数が支持=ロイター
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 8
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 9
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 10
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story