コラム

トランプ弾劾に向けて、いよいよ共和党の保守本流が動き出す?

2018年08月23日(木)12時00分

共和党の保守本流が民主党に合流してトランプ弾劾を一気に決めるというシナリオも Jonathan Ernst-REUTERS

<元側近2人が「有罪」になったことで秋の中間選挙への影響が注目されるが、株式市場が平静を保っているのはあるシナリオが想定されているからという見方が>

今週21日、一日のうちにトランプ大統領の元側近2人が「有罪」になるというニュースが駆け回りました。1人は2015年にトランプ陣営の選対委員長を務めていたポール・マナフォート、もう1人はトランプの個人弁護士だったマイケル・コーエンです。

この2人については、それぞれ別の事件として捜査され、刑事事件として審理されていました。それが、同じ日に2人それぞれが「有罪」となったということで、ニュース性は非常にあるわけで、その日から翌日にかけて、アメリカのメディアは大きく取り上げていました。

ですが、大変な衝撃が走ったとか、大統領の地位がこれで一気に揺らいだということではないようです。その証拠に、翌日のニューヨーク株式市場は平静でした。報道の量は多かったのに受け止めが冷静だった理由としては、色々と挙げることができます。

まず、マナフォートの事件は、トランプ選対に入る前、ウクライナの親ロシア派の政治顧問をしていた時代にできたロシアとの関係が問われました。ただ、今回は外国に秘密口座を持ったり、資金洗浄や脱税を行なったりしたことが有罪になっただけで、ロシアに買収されていたとか、トランプ選対の中でロシアとの癒着行為を行ったことはではありません。ですから今回の「有罪判決」は本丸へのプロセスのようなもので、それ自体のインパクトは弱いのです。

一方で、コーエンの問題は、2人の女性に対して「トランプ大統領との情事」について「口止め料」を払ったというもので、選挙資金の不正な支出等の罪状です。マナフォートの事件と違って、同じ「有罪」と言っても判決が出たのではなく、コーエン本人が「有罪」を認めて司法取引に応じた形になっています。ちなみに、コーエンは有罪を認める中で、大統領自身が「口止め料支払い」に関与したと明言しています。ですが、こちらも全てが予想された範囲であって衝撃度は限られていました。

社会的な受け止め方、あるいは市場の反応が平静だった理由としては、それ以上に「アメリカの分裂」があります。もちろん、民主党支持者などトランプ政権への反対派にしてみれば、今回の「2つの有罪」のことはトランプ政権の腐敗や癒着が暴かれたものとして評価しています。

ですが、トランプ支持者にしてみれば、マナフォートへの捜査も、コーエンの証言も「民主党などワシントンの権力者たちがFBIを使ってやっている陰謀」だということになり、今回の「有罪」というニュースにも全く動じる気配はありません。ですから、「元側近が有罪」という報道が全米にショックを与え、支持者の中に「大統領には裏切られた」という印象が広がるようなことは、ほぼ皆無であると言っていいでしょう。それだけ分裂は激しいのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

華為技術元幹部の通信機器企業を調査、FBIが安保懸

ビジネス

リオ・ティントとグレンコア、統合協議も進展なし=関

ワールド

中国総人口が3年連続減少、24年末は14.08億人

ワールド

韓国大統領の逮捕状請求へ、17日の拘束期限控え当局
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 2
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の超過密空間のリアル「島の社交場」として重宝された場所は?
  • 3
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 4
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    内幕を知ってゾッとする...中国で「60円朝食」が流行…
  • 7
    ロス山火事で崩壊の危機、どうなるアメリカの火災保険
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 10
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    ロシア兵を「射殺」...相次ぐ北朝鮮兵の誤射 退却も阻まれ「弾除け」たちの不満が爆発か
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 8
    トランプさん、グリーンランドは地図ほど大きくない…
  • 9
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 10
    古代エジプト人の愛した「媚薬」の正体
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story