コラム

就任半年のトランプ政権、顕著になる「指導力」の不在

2017年07月28日(金)16時15分

3つ目は通貨問題です。景気が弱くなり、利上げの可能性が薄れることでドルは弱含みとなります。このドル安傾向ですが、かねてから通商政策における保護主義と、国内雇用の改善を主張してきたトランプ政権にとっては、理屈から言えばドル安歓迎になるはずです。ですが、一方で、金融業界の利益代表でもある政権としては、強いドル志向という姿勢も見え隠れしています。一体どっちなのか、ここにも指導力の不在があります。

4つ目は外交です。ロシア疑惑を打ち消すように、ロシアに対して強硬に出たり、新たな経済制裁をチラつかせたり、その一方でポストISのシリア情勢はアサド政権とロシアに丸投げするなど、ここでも一貫性のなさが顕著です。

中国に関してもそうです。北朝鮮への圧力行使を行なえとプレッシャーをかけたり、南シナ海での「航行の自由」確保の動きをする一方で、中国通のジョン・ハンツマン元ユタ州知事をロシア大使に指名する、あるいは、新任のアンソニー・スカラムッチ広報部長というのは自分の投資ファンドを中国に売却した人物であったりと、中国に対して厳しいのか密接なのか良くわからないのです。

【参考記事】トランプ長男が公表したロシア関連メールの衝撃

その新たに着任したスカルムッチですが、就任が決まったことでショーン・スパイサー広報官が辞任したばかりか、ランス・プリーバス首席補佐官との確執も明らかとなり、ホワイトハウスはさらに迷走しています。

同部長は、ホワイトハウスからの「リークは厳しく取り締まる」一方で、大統領などによるツイッターでの政策・政見の発信は積極的に進めると言明しています。そのツイッターでは、大統領が「統合参謀本部とのすり合わせ」もなく、唐突にトランスジェンダー兵士の入隊禁止を発表。政界もペンタゴンも混乱に陥っているのが現状です。

さらに大統領は、自分が任命したセッションズ司法長官に対して、非難を繰り返しています。ロシア疑惑に関して「自分は当事者なので利害相反があり、局外に立つ」とした長官の姿勢を「無責任」だという批判ですが、意味不明であり、政権の周囲はこの件でも混乱状態にあります。

一連の混乱が続く中で、トランプ政権の支持率は40%を切ったまま好転の兆しはありません(リアル・クリアー・ポリティクス発表の各種調査平均値による)。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ自動車生産、11月は前年比11%増 国内向け好

ワールド

英労働市場、求人減少も賃金上昇 中銀にジレンマ

ワールド

スイスの薬価上昇へ、米政権と製薬各社の引き下げ合意

ワールド

ロシア黒海沿岸でウクライナのドローン攻撃、船舶2隻
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 8
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story