コラム

ウソを恥じないトランプ政権に、日本はどう対応するべきか

2017年01月24日(火)16時50分

 この手法は、さすがに大統領に就任したら自粛すると思っていたのですが、就任後も確信犯的に使用しているのですからタチが悪いと言えます。例えば、23日にトランプ大統領は、議会指導者との面談を行いましたが、そこで「ヒラリー候補が自分より単純な得票数合計で上回ったのは不法移民の票が入ったからだ」と述べています。各州の選管は有権者の確認には様々な努力をしているので不法移民が投票できる州はありません。真っ赤なウソです。ですが、民主党を敵視するという政治的な「劇」にあたってはどうでもいいのです。

 さらに、「20日の就任式の群衆は史上最高」だという、これまた平然とウソを言って、大統領と同じように報道官もウソに基づく主張を続けたばかりか、補佐官に至っては「もう一つの真実だ」と述べて居直っていました。

 ですから、日本の通商姿勢に関しても、「80年代の貿易戦争を記憶している比較的高齢の支持者」に対して、「憎い日本を懲罰するとカッコいい」という「政治劇」を演じている中で、「敵味方の果たし合い」を面白く見せるには「事実などどうでもいい」ということになるのでしょう。

 これは大変に危険な相手です。その「ウソを平気で」という姿勢に対して、こちら側が「真面目に怒ってしまう」と、余計に相手の思うつぼで、どこまで行っても対立は解消しないばかりか、対立を相手は政治的求心力の拡大に利用してくるのですから、まったく落とし所が見えなくなってしまいます。

【参考記事】トランプ就任演説、挑発的な姿勢はどこまで本物なのか?

 とは言っても、こちらは独立国なのですから、いちいちトランプ政権の顔色をうかがうような姿勢は適切ではありません。フォード社のように、政権の意向を「受けて」メキシコ工場の建設計画を放棄し、そのウラで自動化工場を建設するような「ズルい作戦」というのは、採用できないと思います。

 では、こうしたトランプ政権に、日本はどう対応すれば良いのでしょうか?

 それは、具体的な提案、しかも「ウソでもファンタジーでもない、21世紀の現実を見据えた」観点で、日米の双方に「ウィン・ウィン」になるような提案を、どんどん繰り出すのです。

 そこで必要なのは「分かりやすさ」です。実は、TPPというのはそのような趣旨のアイディアであり、中期的には中国に市場開放を促すのが究極の目的だったのですが、世論に対する「分かりやすさ」が欠けていたために、「劇場型パフォーマンス」の「えじき」になってしまいました。そうではなくて、もっと明快に「世論が理解し」、しかも「政権のメンツも立つ」ような提案をどんどん繰り出したら良いと思います。

 簡単ではありませんが、知恵の見せ所だと思います。具体的にはやはり中国の市場開放か、或いはこれは通商ではなく政治ですが、朝鮮半島の安定化のようなテーマがふさわしいかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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