コラム

アレッポ陥落、オバマは何を間違えたのか?

2016年12月20日(火)14時00分

 1つ目は、一連の「アラブの春」に関する姿勢です。オバマは、チュニジア、リビア、エジプトでの革命を支持し、リビアではカダフィ政権を打倒するために軍事的な介入も行いました。

 その一方で、リビアではカダフィ殺害後の政治的混乱を「最悪の状態」になるまで放置していますし、エジプトでも「穏健派の大統領候補の擁立失敗」から「同胞団による政権樹立」そして「軍クーデターによるシシ政権登場」、さらに「シシ政権の中ロ接近」へと至る迷走を見せたわけですが、こちらも放置しています。また湾岸産油国のバーレーンにおける穏健な反政府行動に関しては見殺しにしました。

 そうではあっても、シリアのアサド政権に関しては、反政府デモによる政府軍の殺戮があったわけで、ここで毅然とした姿勢を示すことができれば、2009年にカイロで行った自分の「イスラムとの和解演説」に端を発した中東外交について「全面的に失敗だった」などという評価は回避できたはずです。

【参考記事】国連が警鐘「アレッポで多数の住民が殺害されている」

 2つ目は、アサド政権の「化学兵器使用疑惑」です。明らかに使用されたという疑惑があるにも関わらず、最終的にはロシアの仲介による「化学兵器廃棄」という措置で「政治的に無罪放免」に近い形にしてしまったというのは、やはり大きな失策でした。

 3つ目は、時間感覚の欠落です。シリアの反政府運動は、その初期においては分厚い中産階級が参加し、欧州の後押しも得て「平和的革命」になる可能性もあったと考えられます。ですが行動を躊躇するうちに、「反政府勢力にはアル・カイダ系が混じっている」という理由から武器供与ができなくなってきたのです。そこでさらに躊躇しているうちに、反政府勢力の一部がISISに走るという事態になりました。

 そして気付いてみると、中産階級の多くはトルコ経由で欧州へ脱出し、反政府勢力が善玉なのか悪玉か分からなくなる中で、政府軍とロシア軍に蹂躙されるに至ったわけです。

 ではオバマはどうすれば良かったのでしょうか?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米・イスラエル首脳、7日会談へ ガザ・イラン情勢協

ビジネス

FRB議長、利下げ前に一段のデータ「待つ」姿勢を再

ワールド

中国、WTO改革で米と対話の用意 「途上国」特権見

ビジネス

米5月求人件数、37.4万件増 関税の先行き不透明
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    未来の戦争に「アイアンマン」が参戦?両手から気流…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story