コラム

アレッポ陥落、オバマは何を間違えたのか?

2016年12月20日(火)14時00分

 シリア内戦に関しては、ごく初期の反政府デモだった時期、そこでアサド政権が政府軍を使って自国民虐殺を開始した2011年の時点、そこが第1のターニングポイントだったと見られます。軍事介入や、大規模な武器供与をする必要はなかったかもしれませんが、とにかく強力な外交攻勢をかけるべきでした。

 第2のターニングポイントは2013年に化学兵器(具体的にはサリン)使用疑惑が持ち上がった時点です。そこがラストチャンスであり、また大量破壊兵器使用の抑止という国際社会の要請を代表する形で、もっと強力な外交を展開すべきでした。

 この時点で、非常に強い外交攻勢をかけることができれば、現在のような「政治的敗北」には至らなかったと考えられます。ですが、2011年にしても、13年にしても、アフガン・イラク戦争の失敗という負の記憶が新しい中で、アメリカの世論や議会には「アメリカが戦争に巻き込まれるような判断には反対」という強いムードがありました。

 そのような中で、力を誇示しつつも、あくまでも外交というフィールドで強い影響力を行使する、そんなことは可能だったのか、その評価は現時点では困難です。いずれにしても、今回の「アレッポ陥落」はシリア内戦の大きな転換点で、またオバマ時代の終焉を象徴する事件となりました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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