コラム

「トランプ隠し」作戦が効いた、副大統領候補討論の評価

2016年10月06日(木)16時00分

 結果的に、CNNとORC(オピニオン・リサーチという調査会社)が共同で実施した討論直後の簡易な世論調査では、「ペンスの勝利」とした人が48%、「ケインの勝利」としたのが42%と、ペンスが優勢という結果が出ました。

 メディアも同様のことを言っており、CNNでは民主党系の評論家たちまで「今回はペンスが勝利」だなどと、まるで「ゲームとしてのディベート」であるかのような論評をしていました。

 なかには、2012年の大統領選で、オバマ大統領が第1回のテレビ討論で精彩を欠いた後、副大統領候補の討論で、バイデン副大統領が共和党のポール・ライアン候補に圧勝し、それが第2回討論でのオバマの巻き返しにつながった、などという「故事」を持ち出して、トランプ候補の「復調」に期待するような論調もありました。

 このような報道姿勢がどこから来るのかというと、アメリカのテレビ局の場合、中立性を確保するというモチベーションよりも、選挙関係の世論調査で大きな差がついてしまって選挙戦が一方的になるのは困るという「露骨な利害」があるからかもしれません。

【参考記事】トランプ、キューバ禁輸違反が発覚=カジノ建設を検討

 とにかく大統領選というのは、ニュース専門のケーブルチャンネルだけでなく、三大ネットワークにおいても稼ぎ時だからです。視聴率だけでなく、スーパーPACと言われる支持団体NGOからの莫大な広告出稿が期待できるからです。そのビジネスモデルからすると、選挙は僅差で白熱することが望ましいわけです。

 それにしても、ペンスの戦術は異常でした。ケインの「トランプ批判」を、徹底的に「スルー」しました。困ったような顔で首を振りながら聞き、自分の番になると「一切なかったかのように」別の話題で民主党への攻撃を始めるのです。

 要するに「メキシコ国境に壁を作る話」も、「イスラム教徒の入国禁止」も、「サウジ、日本、韓国への核武装容認」も、何もかもがペンスの手にかかると「なかったこと」になってしまうのです。

 リベラル系のメディアは、ペンスがトランプを「擁護しないことが6回もあった」という批判をしていますが、これは完全に確信犯です。つまり、伝統的な共和党の支持者たちに「自分たちは共和党だ」ということを再確認させて、少なくとも議会や知事の候補に関しては棄権せずに投票し、あわよくば「トランプ=ペンス」のコンビにも投票させよう、そうした緻密な計算の上での行動だったように見えます。

 そんなペンスの討論姿勢を「勝利」だと評価してしまうメディアは、実は今回の「トランプ現象」を演出してきたのが自分たちだと、暴露しているようなものだとも言えるでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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