コラム

安倍首相の真珠湾献花、その意義を考える

2016年05月12日(木)16時40分

 3つ目には、ホスト国としての姿勢です。月末のG7伊勢志摩サミットでは、安倍首相は議長国としてホストを務めます。その直前に「真珠湾訪問」を発表すれば、これはアメリカに歓迎されるだけでなく、カナダや欧州の首脳にとっても賞賛に値する判断であり、首相の議長としての姿勢にはより深いリスペクトが払われることになります。

 このことは首脳だけでなく、随行するメディアを通してG7とEU各国に伝わると思います。なぜなら、世界平和の維持ということはG7の精神であり、相互献花外交とはその精神を体現した行動だからです。

【参考記事】トランプ外交のアナクロなアジア観

 4つ目に、仮にオバマ大統領の広島訪問「だけ」ということになると、どうしても「謝罪を求めなくていいのか?」「行くだけで謝罪的なニュアンスになるのをどう避けるか?」といった、政治的に「濁った議論」が続いてしまいます。

 仮に安倍首相がハワイ行きを決断して「相互献花」が実現すれば、そうした「濁った議論」を日米の世論から消せる可能性があります。そうなれば、G7では純粋に核廃絶や核不拡散の議論に専念できる、つまりは今回の伊勢志摩サミットをより実務的に意義深いものにできることになります。

 5つ目に、安倍首相の真珠湾献花で、「大きなストーリーが完結する」ことです。ホワイトハウスのローズ補佐官によれば、オバマ大統領の広島訪問は「第2次大戦の民間人犠牲全体に対する慰霊になる」と説明されています。

 もしそうなら、直後に安倍首相が真珠湾で献花をして、今度は「第2次大戦の太平洋戦線における戦没者全体への慰霊」を行い、そして2つの行事が間隔を置かずに行われることで、「第2次大戦の太平洋戦線の始めと終わり」に関する慰霊の儀式を完結させることができます。つまり5月27日の広島と、30日の真珠湾でG7と日米による平和のメッセージの円環を閉じることができるのです。

 直前の調整になりますし、アメリカの国民の祝日に合わせて首相が行くのは、異例といえば異例です。ですが、5月27日の直後の30日というタイミングの良さ、そして何よりもG7議長国としてのリーダーシップの発露として、大きな可能性を秘めたアイディアだと思います。実現を強く望むところです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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