コラム

映画『東北記録映画三部作』に見る地方の可能性

2015年04月16日(木)12時03分

 小野和子氏は講演の中で、自分は東北にとっては「よそ者」であるが(出身は岐阜県)、民俗学というのは「ハートは対象に寄り添い」ながらも「視点は他者の冷静さ」を維持することで見えてくるものがある、それを自分のスタイルとしていると言っていました。これは、地方のコミュニティにおける「他者との出会い」すべてに一般化できるものだと思います。

 さらに言えば、一見すると巨大な人口を集めて繁栄しているように見える東京も、潜在的には「独居高齢者」の人口爆発という「時限爆弾」を抱えているわけで、この問題は単に福祉のコスト高というだけでなく、「人が孤立することで、語りや出会いの場が喪われる」というコミュニティの危機でもあるのです。

 そう考えると、この「東北三部作」の提起する問題は、単に東日本大震災からの復興や、東北という一地方の問題であるだけでなく、日本というコミュニティをどう再生していくかという大きな問題提起になっているわけです。今後も日本各地で、また世界で上映が続くと思います。是非、ご覧になることをお薦めします。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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