コラム

「メール全件削除」に出たヒラリー、疑惑はかわせたのか?

2015年03月31日(火)11時09分

 ヒラリー・クリントン氏が自分の「eメール」をめぐるスキャンダルに巻き込まれそうになりました。2009年からの4年間、オバマ政権の国務長官時代に法律に違反して、個人のメールアドレスを使って公務をしていたというのが問題になったのです。

 まず、国務長官と言えば国の外交の事実上の責任者であり、最高の外交官でもあるわけです。ですから公務を遂行するにあたって必ず国務省のサーバを通して、公式のアドレスで交信をすることが義務づけられているわけです。

 理由は簡単で、国家の最高機密を扱う以上は「最高のセキュリティで情報を保護する必要がある」からです。個人のアドレスを使用したり、セキュリティの甘いサーバを使われたりして、機密が漏えいしたら大変なことになるわけで至極当然の措置と言えます。

 但し、個人のアドレスの使用が全く禁止されているかというと、そうではなく、緊急避難的な使用は認められています。その場合はメールのコピーを国務省に提出することが義務づけられています。

 さて、このスキャンダルですが、共和党の一部と保守系のTV局「FOXニュース」などが、かなり躍起になって追及をしていました。2016年の大統領選へ向けて、立候補表明前に「最強の民主党の候補ヒラリー」を政治的に葬ることができれば、ホワイトハウス奪還もグッと現実味を帯びてくる、追及にはそんな迫力が感じられたのです。

 では、どうしてこの問題が「深刻なスキャンダルになる」可能性があったのでしょうか?

 まずアメリカの場合、この種の「単純な法令違反」に対して「法令に違反しているからダメ」という批判はそれほど有効にはなりません。また「情報漏えいの可能性のあるようなITリテラシーの低さを露呈した」ということでヒラリーを追及していたのでもありません。

 共和党の思惑は違いました。そうではなくて、このスキャンダルに乗じて、ヒラリーの国務長官時代の「公電」と「私信」を暴露したかったのです。彼らのターゲットは、主として1つの事件でした。それは、2012年の9月11日にリビアのベンガジにあった、アメリカ領事館が武装勢力に襲撃されて、クリストファー・スティーブンス大使など4名が殺害された事件です。

 共和党としては、当時の国務長官であったヒラリーが「事件を甘く見ていた」ために「在外公館の警備を怠った」というスキャンダルを延々と追い続けています。その背景には、襲撃の直前にアメリカで「ムハンマド侮辱ビデオ」が出回るという事件がありイスラム圏では広範囲で「反米デモ」が活発化していたという問題があります。

 結果的には北アフリカのアルカイダ系武装勢力によるロケット砲などを交えた「武力攻撃」であったわけですが、当時のスーザン・ライス国連大使(現大統領補佐官)などは「大使館襲撃はビデオへの抗議デモ」だというような発表をして、その後に撤回をしています。では、共和党としては何が目的なのでしょう?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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