コラム

安倍政権とアメリカ政治の「ねじれ」に危険性はあるか?

2015年01月29日(木)12時46分

 共和党では、ジェブ・ブッシュ、ミット・ロムニーに加えて、ニュージャージー州のクリス・クリスティ知事も2016年の大統領選へ向けて出馬準備に入っていますが、こうした顔ぶれへの期待感も基本的には「内政重視」という観点が中心です。「強いアメリカの復活」などという「カネがかかる一方で世界から嫌われる」政策を期待する意見は、特に若い共和党支持者の間では少ないのです。

 では、現在のアメリカの対外政策を進めている民主党の方はどうでしょうか?

 例えば、オバマ大統領であるとか、その周辺にいる外交の専門家たち、つまりスーザン・ライス補佐官とか、サマンサ・パワー国連大使といった顔ぶれ、あるいは大統領選への期待論が高まるヒラリー・クリントンはどうかというと、こうした人びとは「被抑圧者の人権」ということを極めて重視する人びとです。

 例えば、シリアの反体制派の中で難民化している人々をどう救うか、あるいはISILの迫害を直接受けているイラク領内のヤジーディー教徒を、どうやって救出するかという問題には、そのこと自体に大きな関心があるのです。

 一方で、オバマ政権は隠密的な軍事作戦には積極的です。パキスタンの主権を侵害してまで「オサマ・ビンラディン殺し」を超法規的に遂行したのが良い例ですし、国際法上のグレーゾーンを突いた格好のドローンの使用は、オバマの時代になってエスカレートしています。

 それ以前の問題として、オバマ大統領という人は、自分がノーベル平和賞を受賞した直後に、アフガニスタン戦線における「増派(サージ)」を決断するなど、軍事的な行動に関しては果断な決断をする人物でもあるのです。

 では、オバマはブッシュと同じかというと、その行動の背景にある思想は全く違います。ブッシュの場合は、あくまでアメリカの「一国主義」が基本になっています。あくまでアメリカが最優先なのです。ですが、オバマの目標は、国際協調主義による「人道支援」であり「人権の確保」です。そのためには軍事作戦を厭わない、それがオバマの政策です。

 そう考えると、安倍首相の主張する「積極的平和主義」というのは、アメリカから見ると、右派の「一国主義的な反テロ戦争」というよりも、オバマ政権とその周辺の「リベラル」に近いことになります。経済政策同様に、軍事外交政策においても、安倍政権の政策は「アメリカの左派との親和性」があると言えるのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の昨年資産報告書、暗号資産などで6億ドル

ワールド

イラン、イスラエルとの停戦交渉拒否 仲介国に表明=

ワールド

G7、中東情勢が最重要議題に 緊張緩和求める共同声

ワールド

トランプ氏、イスラエルのハメネイ師殺害計画を却下=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story