コラム

米議会によるオバマ提訴は可能か?

2014年07月08日(火)10時47分

 そこでベイナー下院議長が狙ったのは、歴代大統領に比べてオバマ大統領が「大統領令(エグゼクティブ・オーダー)」の発動によって政策を実施する事が多いという問題でした。

 移民問題、同性婚の問題、軍事行動の発動と停止、予算に関連した決定など、多くの分野において、オバマは「大統領令」を乱発しており、その結果として、下院を含めた議会に諮って正式に法律として発効させるべき問題を、議会に相談なく実施しているというのです。

 ベイナー下院議長によれば、この大統領令の乱発により、下院の政治的使命は十分に果たされておらず、その政治的影響力が損なわれた、ということになります。この点において、個々の議員は提訴の当事者になる能力はないが、連邦議会下院としては訴訟が可能だと主張しています。

 問題は、ねじれ議会が続いていることですが、その「ねじれ」の結果として、大統領が自分の政策が議会では通らないことを見越して、「大統領令」を出して一方的に済ます、そうした姿勢があまりにも安易に使われた、争点はここにあるのだと思われます。

 それにしても、そもそも下院を代表して下院議長が大統領を訴えることが可能なのでしょうか? 大統領による大統領令の乱発が「下院の権限を損ねた」というロジックで、民事訴訟に持ち込む、そんなことは憲法上可能なのでしょうか?

 オバマ大統領は「どうぞ訴えて下さい」と開き直りの姿勢、またアーネスト報道官は「そんな戦術は前代未聞」だとして、提訴自体がテクニカルに不可能という立場を表明しています。ですがこの問題、アメリカ人の大好きな法廷ドラマに発展する可能性もあり、今後の展開には要注意です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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