コラム

「3・11」3周年、分裂が固定化しつつあるエネルギー問題

2014年03月11日(火)12時29分

 この3月11日は静かな追悼の日にするのが礼儀なのかもしれません。例えば、反原発の集会やデモが9日や10日に行われたというのは、そうした態度自体には誠実なものを感じます。ですが、私にはやはり「あの日」から迷走し始めた日本のエネルギー戦略の問題は、どうしても「この日」に真剣に考えてみたい、そのように思われるのです。

 とにかく、現在の日本はエネルギー戦略に関しては深刻な分裂にあり、ともすれば分裂が常態化しつつあるように思われます。

 そんな中、例えば東京に関しては株高の影響が消費にプラスの影響を与える中で、景況感は良くなっているわけですが、そのためもあって節電ということは忘れられているようにも思うのです。では、原発稼働ゼロという現状下で、化石燃料だけでエネルギーの供給が確保できているのかというと、問題は深刻です。

 とりあえず、火力発電所をフル稼働させているわけですが、そのために化石燃料の輸入が増大しています。更に、この間に円安が進行したこともあって、ここ数カ月の貿易収支はマイナス1・5兆円から2兆円という水準になっており、過去最悪の状況です。

 電力会社の経営もそうした燃料高を反映して、東京電力だけでなく、泊原発が停止中の北海道電力なども、危機的な状況にあるわけです。

 そう考えると、原発を再稼働するという話になるわけですが、これが国レベルでも各地方のレベルでも合意できないわけです。賛成と反対の双方の立場があって、お互いに一歩も引かない格好になっています。

 例えば、日本維新の会では「トルコなどとの原子力協定」に関する賛否で内部分裂が見られます。賛成派、つまりトルコへの原発輸出を支持する立場としては、石原慎太郎氏がいるわけで、石原氏の場合は「核武装」が究極の目的であり、私としても全く支持はできないのですが、とにかく賛成派がいる一方で、大阪を中心としたグループは反対であるわけです。

 どうして反対なのかというと、福島第一の事故を経験し、日本が脱原発に向かう現状下で、自分の国は原発依存を脱しようとしているのに、他の国に原発を売るのは不誠実だからという理由です。

 それは、確かに誠実な姿勢なのかもしれませんが、今後のエネルギー情勢を考えて、一番安全で信用がおけるという理由で、日本からの輸入を決定したトルコなどからしたら、日本が断ったら、例えば韓国などの技術的に後発の国から輸入せざるを得なくなるわけです。

 また、事故機は「第1世代」の米GE製であって、トルコ等が買おうとしているのは、それから比べると「第3世代プラス」という新しい技術の搭載された日本製です。トルコから見れば、GE製の旧型が事故を起こしたからと言って、「第3世代プラス」の日本製を拒否する理由にはならないわけです。

 そうではあるのですが、維新の会の場合は、一方で「自分がやめようとしている原発を輸出するのは不誠実」だという意見があり、一方では「核武装を見据えた核開発が自分の文明観」などという極端な立場があるわけです。これでは、意見が一本化するはずはありません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、「TikTok米事業に大型買い手」 詳

ビジネス

米輸入物価、8月は0.3%上昇 資本財・消費財の価

ワールド

イスラエル、イエメンのホデイダ港を攻撃=フーシ派系

ワールド

トランプ政権、クックFRB理事解任阻止巡り上訴へ=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story