コラム

田中将大投手「超大型契約」に込められた期待感とは?

2014年01月23日(木)13時24分

(4)一方で、ニューヨークのファンも「24勝ゼロ敗」という田中投手の2013年の日本での成績を知っています。そのために、ある種の「ビッグシーズン」を期待しているのは間違いないでしょう。その点で参考になるのは、特にヤンキースの場合は一つの圧倒的な例があります。それは1978年のシーズンのロン・ギドリー投手が「25勝3敗、防御率1.74」という圧倒的な成績でチームを「ワールドシリーズ制覇」に導いたケースです。NYにはこの年のドラマチックなヤンキースの優勝劇を、今でも「人生最大の思い出」として記憶している人がたくさんいます。ギドリー投手の寡黙でクールな性格、そして素晴らしい集中力については、ヤンキースの専属チャンネル「YES」というTV局が1時間番組にしてDVDも発売されていますから、参考にしてもらいたいと思います。

(5)そのギドリー氏は、2006年から2年間そのヤンキースの投手コーチを務めました。決してチームの状態が良くない中でのコーチ業には、苦悩がにじんでおり、現役時代を知るファンには複雑な思いがあったのは事実です。そのギドリー投手コーチの「悩みのタネ」の一つは、井川慶投手との言葉と文化の壁によるコミュニケーション・ギャップでした。非常に残念なことですが、辛口のヤンキースファンは「タナカが第2のイガワにならねばよいが」などという心配をしているのは事実です。田中投手としては、もしもキャンプに小柄で口ひげを生やしたダンディなギドリー氏の姿(時折春季のアドバイザーとしてキャンプに参加することもあるので)を見かけるようなことがあったら、是非自分から自己紹介をして欲しいと思います。この実直な苦労人には何か学ぶものがあると思うからです。井川投手には失礼な言い方になりますが、ギドリー氏に認めてもらうことが「自分はイガワではない」というファンへの宣言にもなると思います。

(6)メジャーのマウンドは、一球一球が真剣勝負であり、その勝負に集中する姿勢や、敵の打者を研究し尽くす姿勢などでは、ヤンキースには黒田博樹という大先輩がいます。日本人同士ということで、お互いに難しさはあるかもしれませんが、是非いいコンビを組んで欲しいし、黒田投手から学ぶべきものは学んで欲しいと思います。

(7)今季のヤンキースは、Aロッドの薬物使用に関する処分事件を引きずり、また主将のジーター選手が選手生命の「最後」を賭けるという事情など色々な問題があります。また、エルズベリー選手や、ベルトラン選手など優秀な攻撃陣を他のチームから招いたのはいいのですが、この2人はどちらかと言えば「寡黙」で「クール」なタイプです。チームが沈滞した場合に、自分から周囲を引きずり回して活性化するようなタイプではないのです。その点で、ブレーブスから移籍してきた正捕手のブライアン・マキャン選手は「ある熱いもの」を秘めているように思います。彼とバッテリーとしていいコンビを組んで、「寡黙な紳士集団」だけではない「新しいチームのケミストリ」を作っていって欲しいと思います。

 いずれにしても、4月の開幕が、いや2月末の「スプリングトレーニング戦(オープン戦)」が大変に楽しみです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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