コラム

ガラパゴス化した日本の「ドラマ」、コンテンツ輸出にはどんな工夫が必要か?

2013年11月19日(火)11時51分

 問題は東日本大震災の打撃という問題が、実は「地震と津波による被災」だけでなく「過疎高齢化」が二重の痛苦として重なっている、その課題を受け止める表現として、手の込んだ言葉の奔流で作られた「ご当地コメディ」という形態が選択されたというのは、グローバルな文化の現状から見ると「進みすぎて」いるという点です。

 それもキチンと解説すれば、もしかしたら村上春樹文学のように国境の外にも伝わっていくかもしれませんが、マスを対象とした「エンターテイメント」というカテゴリからは完全に逸脱していくでしょう。やはり『あまちゃん』は「コンテンツ輸出」の対象にするのは難しそうです。

 もっと単純な例としては、好評を博した音楽ドラマの『のだめカンタービレ』が挙げられます。玉木宏さんが上野樹里さんを投げ飛ばしたりする「マンガ調のコミカルな暴力シーン」が挿入されたり、本筋とは関係のない「下ネタ」が飛び出したりする点で、この作品も「コンテンツ輸出」の対象とするのは、かなり「ムリ」であると思います。タブーに触れるということもありますが、クラシック音楽という題材と、偽悪的なコメディが「バランスする」という感覚が翻訳不可能だからです。

 こうした「マンガ調のコミカルな表現」ということでは、『クレヨンしんちゃん』も難しい例です。アメリカにもこの「しんちゃん」の評判が伝わり、版権を取得したアニメ専門局が放映をしたのですが、「セリフをそのまま訳したら」どうなったかというと、日本では「幼児から大人まで楽しめるはずのファミリー向けアニメ」が、「成人向け」になって深夜の時間帯に放映ということになってしまいました。

 この「しんちゃん」の「アメリカ版」ですが、単に深夜の時間帯でしか放映できなかっただけでなく、「日本語だとソフトなユーモアになるが、英語だと直訳でも露骨なアダルト向けブラックジョークにしかならない」という「文化ギャップの相当に複雑な例」にもなってしまいました。

 こうした「異文化の世界に持ち出すのが難しい」コンテンツというのは、日本文化が孤立した形で発達洗練した、いわば「ガラパゴス」的な文化であると言えます。一つ確認しておきたいのは、そのこと自体には何も問題はありません。

 ですが、仮に「国際ドラマフェスティバル」といったイベントを盛り上げて、「コンテンツを輸出したい」ということであるならば、それ相応の戦略が必要になると思います。つまり、純粋に「ガラパゴス化した」ドラマではなく、もう少しグローバルな世界で通用するような工夫をする必要があると思うのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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