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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ネット上でのパロディが困難な理由とは?
少し以前の話題になりますが、5月5日の「こどもの日」に、ネットの世界で話題になっている『虚構新聞』というサイトが、「おとなの日」制定を要求するデモが行われたという「ニュース」を流していました。「こどもの日があっておとなの日がないのは不平等」だというデモ隊に対して、小学生からは「大人げない」という声が聞かれたというストーリーでしたが、「虚構」にしては、どこか笑えない不思議な切れ味を感ずる「ニュース」だったように思います。
この「おとなの日」制定の「デモ」というニュースが「笑えない」というのはどういうことなのでしょう? そこには「愛情の受け渡し」という問題があるように思います。親になるということは、子供の庇護者として「無限の愛情」を供給することが求められます。ですが、子供に愛情を注ぐべき「こどもの日」に、仮に「おとなの日がないのは不公平」だという大人がいたとしたら、その人達は愛情の供給側ではなく需要の側にいるわけです。
ですが、粗っぽい議論は承知の上で、「愛情を供給する側」と「愛情の需要のある側」に分けるとしたら、やはり親になるということは供給の側に回ることを意味すると思います。ですから、需要の側に立つこと、つまり愛情を与えるのではなく、あくまで愛情を欲しているという状態は親になることの忌避ということにつながるのではないかと思うのです。もしかしたら、少子化の根源にはそうした現象があるのかもしれません。
そんなことを考えさせられたことも含めて、いや、そこまで真剣に考えないにしても、こうした「虚構」や「パロディ」というのは、様々なイメージや議論を喚起してくれるように思います。
ですが、同じ『虚構新聞』が「報道」した、「大阪の橋本市長が小学生全員にツイッター加入をさせる」という「ウソのニュース」には賛否両論・毀誉褒貶さまざまな意見が飛び交いました。これは他でもない、現代における「パロディ」の難しさということを示しています。
1つは、パロディやユーモアというのは、ストレートな意見表明と比べると、主張の伝わり方の強度は高いということです。この高さというのは、例えば「対象に批判的であり、ユーモア表現を喜んでくれる人間」には、「何それ? 何だ、そういうことか・・・」という理解プロセスの複雑さに「参加する」ることで「引き込まれ」てくれ、それが笑いになるわけです。
ところが「批判される側、笑われる側」は、この理解プロセスの複雑さは、そのまま「複雑なやり方で嘲笑された怒り」になってしまうわけです。更に言えば「自分たちを嘲笑する側にある、ある種の確信」が、強烈な敵意に見えてしまう、あるいは自分達を一段も二段も低く見下す「上から目線」に感じてしまうのです。
もう1つは、現代は価値が多様化した時代だということです。昔のように、権力者、富裕層、犯罪者などを嘲笑するというのが「お約束」として広範に受け入れられる時代ではないのです。しかも、政治や社会の問題について自分自身を強く投影したり、閉塞感と戦おうという力の入った論調の多い時代でもあります。ますますもって、ユーモアとかパロディが難しい時代と言えそうです。
更に、ネットというのは伝播力は革新的なのですが、付帯情報とか情報の確実性の保証ということには過去のオールドメディアに比べれば、決定的な脆弱性を持っているのです。猛スピードで伝播する中で、実に簡単にアッサリと騙されることもある、そうした特殊性の中で「パロディを本気にしてしまう」という現象から、だから「パロディはけしからん」という拒否反応が起きるのでしょう。
そう考えると、現代という複雑な時代に、ネットというメディアでパロディ表現をやるというのは、相当な困難を伴うようにも思えてきます。
ですが、こうした困難はネットだけの問題ではないのです。例えば、20世紀の名優オーソン・ウェルズが1938年に起こしたラジオでの「火星人襲来」騒動という事件があります。これは厳密に言うとパロディとは少し違うのですが、要はH・G・ウェルズの書いた『宇宙戦争』(2005年にスピルバーグがトム・クルーズ主演で映画にしています)をラジオ版に翻案した際に、余りにウェルズの演技が迫真であったために、「本当に宇宙人が来た」というパニックが起きたのです。
実は私の住むニュージャージーの町にある、グローバーの水車小屋跡という土地に「この地に火星人襲来す」という小さな石碑が立っているのですが、ウェルズの演技のために、当時は本当にこの地に火星人が来たと思った人がいたわけです。
ということは、ラジオという「音声だけで付帯情報の欠落した当時のニューメディア」でも同じようなことが起きたわけで、何もパロディが通用しないで「シャレにならなくなった」というのは、ネットの特性ということでもないようです。
新しいメディアが生まれて成熟してゆく際には、こうした混乱はつきもの、しかも伝播力が画期的でその割には付帯情報が欠落している場合は、一般的にそうした現象が起きやすいのでしょう。時代の閉塞感とか「上から目線」などと悲壮感漂う議論はどうも的外れだったようです。正体不明のサイトではありますが、『虚構新聞』には今後も健闘を祈りたいと思う次第です。
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