コラム

福島県復興のための実行項目とは何か?

2011年04月18日(月)11時54分

 菅総理が「福島復興委員会」という会議の設置を提唱しているという報道がありました。

 重要な提案だと思います。

「一体いくつ会議を作るんだ?」という批判も多いようですが、この問題だけは別です。他の会議、他の復興計画とは違って、直近の実務的な問題に前例のない重たい判断を要求されるからです。
 
 問題は3つあります。この3点について、厳密に計画をすると共に日々変化する状況を受けて、計画を実行する一方で、最適になるように改訂し続け、その全体を常にオープンにし続けなくてはならないと考えます。

 1つ目は同心円避難区域についての判断です。

 福島県が今苦しんでいる最大の問題です。苦しんでいるというのは勿論多くの人々が不自由な避難生活を余儀なくされていることもありますが、これに加えて先の見通しのつかない苦しさという問題があるわけです。首相周辺からの「20年は戻れない」という言葉が独り歩きする一方で、それが一方的な批判を浴びたりするのは、この住民の苦しさを反映したものだと思います。

 この「先の見通しが立たない」ことを受けて、東電は工程表なるものを発表しました。原子炉と使用済燃料プールを含めて、事態の収束へ向けて「ステップ1」「ステップ2」そして「中期的対応」の3段階に分けた計画が書かれています。この「ステップ1」が完了すればある程度安全に、そして「ステップ2」に到達すればより安定した状況になるとして「ステップ1」には約3カ月、「ステップ3」については約6~9カ月が見込まれるという発表になっています。また海江田万里経産相は、「ステップ1」が完了した後に、住宅地等の線量測定を行って帰宅の可否を決定すると表明しています。

 私はこの方針の基本的な考え方は間違っていないと思いますが、発表が分かりにくいのは問題だと思います。まず工程表なるものは単純に過ぎます。この工程表を状況に応じて改訂するのも分かりにくいと思います。「ステップ1」「ステップ2」の2段階も曖昧です。そんな言い方ではなく、まず「爆発の可能性をゼロにする」ことが目標、次に「沸騰などによる大気中への新たな放射線物質の放出をゼロにする」ことが目標だ、つまり「爆発可能性ゼロ」「放出ストップ」という2段階の目標がある、そうハッキリ宣言すべきだと思います。

 その上で「3つの原子炉と4つの燃料プール」の全てにおいて「爆発可能性ゼロ」の認定に到達した時点で、「同心円避難区域」を段階的に解除すべきだと思います。同心円避難区域というのは水蒸気爆発(恐らくその可能性はほぼゼロになっていると思われます)もしくは水素爆発(こちらはまだゼロではありません)による大量の放射性物質飛散を警戒し、その際の風向風速を予想するのが難しいことから同心円で実施されているものであり、爆発の危険が去ったら外側から解除することになる、そう宣言すべきと思います。

 その上で、線量測定結果に基づいて今回の30キロ圏での「計画避難区域設定」と同じように、10キロ以上20キロ以下のエリアでも、線量の高いところは一時帰宅は認めた上で避難体制を継続することになると思います。

 2つ目は除染です。

 東電の言う「ステップ2」と定義が一致するかは分かりませんが、大気中への新たな放出がストップできた、つまり最も時間のかかった炉またはプールから放射性物質の放出が止められたという時点で、速やかに除染がスタートするようにすべきです。除染には2種類あります。

 まず、その地域の大気中の放射線量を減らすために、3月の爆発時に降下したと思われる放射性物質を建築物の外面、あるいは道路や住宅地の表面から除去するということです。ヨウ素131の場合は8日で半減しますが、セシウム137は30年、ストロンチウム90は29年と半減期が長いので、効果的な除染が必要になるし、また除染しないと場所によっては「住めない」ということになります。したがって、同心円ではなく線量の問題で帰宅のできなかった地域への帰宅を進めるには除染が必要になるわけです。

 もう1つは土壌の入換えです。これについては、大きな作業になりコストも労力もかかるわけですが、線量の高い地域では、農産物の作付けを再開するためには必要です。こちらも、とにかく「放出ストップ」が確認され、空気中の線量が減った時点で日程を決めて実行することになります。そのために、今からどのような順位でどのように実施するか、計画を立てなくてはなりません。

 3つ目は、安全基準の問題です。

 居住の安全基準、作付の安全基準、酪農の安全基準について、曖昧な政府の決定では説得力が十分ではない懸念が残ります。あくまで人類史上に残る事件としてIAEA並びにWHOの基準を厳密に適用してゆくべきであり、そのような運用がされた前例として残すべきです。安全基準のないジャンルに関しては、国際基準を作ってもらうことも必要です。こうした点については、今後、IAEAの閣僚級会合、原子力問題サミットなど、大きなチャンスはいくつかありますから、そこでしっかり提案していくべきです。

 国際基準を適用するというのは、単なる数値のガイドラインだけではありません。線量の測定方法などのプロシージャー(手続き)も国際基準に即して行うべきです。また必要に応じて国際機関の調査や助言を仰ぐべきですし、場合によっては査察を受けることも必要と思います。例えば、今でも問題を引きずっている飯舘村の問題も、3月18日前後にIAEAがこの地域の高線量を指摘した時点ですぐに動いていれば、問題がこじれることはなかったのではと思います。

 また除染の作業そのものに関しても、技術力に問題があるのであれば、米仏をはじめとした各国の協力を仰いだり、国際機関の助言を求めるということは排除すべきではありません。

 以上の3点ですが、これでは復興計画とは言えないではないか、そのような批判があるのは当然だと思います。宮城や岩手は町づくりや新たな農林水産業の計画など壮大なことを考え始めているのに、福島はいつまでも避難や帰宅、線量計測に除染などという「地味な」作業に追われ、しかもそのメドも立っていない、そうした怒りもあると思います。ですが、3つの炉と4つのプールを相手にして作業が続く現在、どうしてもこうしたプロセスを経なくては先へ進めないのです。

 このプロセスを透明性をもって、また事実に基づいて冷静に進める中で、中長期の展望は開けてくるのだと思います。また、その透明性・客観性が確保されることが、風評問題に対する最大の対策になると思います。特に安全基準を国際基準に合わせ、国際機関の協力やチェックを受けて安全性の確認を行うことは、県内外の不安感情に対する最大の対策になると思います。

 アメリカの新聞では、飯舘村の問題をはじめとして福島県というコミュニティが、どのように苦しんでいるかを、人々の肉声を紹介しながら詳しく報道しています。厳しい現実が続きますが、世界中の関心が集まっています。何としても復興を進めてゆかねばなりませんし、そのためには透明で冷静な対応、そして国際基準によるオーソライズのプロセスが必要と思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アベノミクスは「かなりの成果」、利上げ方針の論評は

ワールド

トランプ氏、NATO脱退を検討 英紙に表明

ワールド

豪首相、戦争の経済ショックは数カ月継続と警告 公共

ワールド

ユーロ圏はすでに逆境、インフレ波及22年よりも急速
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 5
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 6
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 7
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story