コラム

アメリカのサッカーはまだまだ発展途上

2010年06月28日(月)09時49分

 2006年のドイツ大会ではチェコ戦の0−3の敗戦など2敗1分と最悪だったアメリカの代表チームですが、今回はアルジェリア戦の最後に、ロスタイムの1点でのドラマチックなグループリーグ通過劇があったわけで、何とかベスト16には行きました。ですが、結局は同じようにガーナに全く歯が立たずに「ジ・エンド」になったという点では、同じと言えば同じです。スコアも同じ2−1での敗戦でした。改善しているとはいえ、本当にスローな成長ペースとしか言いようがありません。

 2006年に比べて良かった点は、エースのドノバンが見せ場を作ったことです。アルジェリア戦の決勝点、そしてガーナ戦のPK成功という結果を出しただけでなく、そのことで、サッカーファンの裾野を広げることができるようなPR効果もあったと思います。絶対のエースへの依存が高まるばかりという不安要素も残りましたが、ドノバンはまだ28歳ですから、運動量とスピードは4年後でもまだ通用するでしょう。

 監督がアリーナからブラッドレーに替わったのも良かったと思います。少なくとも、ブラッドレーはプリンストン大のサッカー監督を長年やっていただけあって、非常に紳士的であるし、チームの士気の足を引っぱるようなこともしていなかったからです。それから、感動的だったのは「何とかしよう」という気分がチームにあふれていたことです。アメリカの、恐らくはアメリカン・フットボールの悪影響と思われる極端な持ち場意識をようやく抜けて、何とか近代サッカーらしき姿にはなってきていました。

 成長と言えば、今回のアメリカにおけるW杯の中継体制は非常に改善していました。ディズニー=ABC=ESPNが例によって独占権を持っていたのですが、前回までのように、キックオフの直前までCFを入れて両国国歌を無視したり、ホイッスルと同時にCFへ行ったりという興ざめな措置はなくなりました。全試合完全リアルタイムでのHD中継、しかも十分な(質はともかく)戦前戦後の分析つきでの「まともな」放送になっていたのです。CFは例によってバドワイザーや現代自動車が圧倒的でしたが、キチンと売れているようです。

 W杯期間の社会の雰囲気についていえば、まず移民社会を中心に各国への応援は益々派手になっています。私の街でも、アルゼンチンやイングランドの国旗を掲げて応援している(ちなみに、隣同士ではないのでご心配なく)家であるとか、ブラジル国旗を掲げて走り回っているクルマなど、みんな伸び伸びとそれぞれの出身国を応援しているのです。この辺は、オバマ時代らしい国際化と寛容の気分ということが半分、サッカー人気の「成長」が半分というところでしょうか。アメリカの代表チームの応援に関しては、いつものようにオフサイドでゴールを消される「疑惑の判定」が数回あり、そのたびに憤激したローカルのタブロイド紙が特集を組むなど、良くも悪くも前回よりは熱気があったように思います。

 まあ、良かったのはそのぐらいで、後は土曜日のガーナ戦敗退で明らかなように、代表チームのサッカーそのものは正に発展途上という感じです。空中戦で完全に負けている、そのくせ決して少なくなかったコーナーキックは全部バカ正直にゴール前の上に上げてDFのへディングでかわされている、サイドからの攻め、タテヨコの鋭いパスもほとんど見られない、中盤の1対1も弱いし、オフサイドトラップには簡単に引っかかる・・・試合にはなっていませんでした。お家芸とも言える運動量も、日本を含めた各国が徹底強化してきた現在では、それほどのアドバンテージにはなっていないのです。

 そんなわけで、ファンの期待度が上がり、サッカーを見る目が厳しくなり、その結果として代表が強くなっていくという流れに関しては、本当に「遅々として進まず」というのがアメリカのサッカー、その印象は全く変わらなかったのです。どうしてかというと、色々なところで申し上げているとおり、

1)本場のサッカーを知らない。
2)女子のスポーツだと思っている。
3)アメフのための運動量を鍛える「高校生の秋のスポーツ」だと思っている。
4)アメフの「持ち場主義」の悪影響で、ファンがフレキシブルで高速な近代サッカーの価値観が分からない。
5)紳士的すぎて当たりが弱い。
6)そのくせ、イザとなるとギヤをつけたホッケーやアメフと勘違いしてフィジカルが荒くなる。
7)時計の止まらない時間感覚が分からない。
8)審判との騙し合いなど、大人のコミュニケーションがまるでダメ。
9)個々の自己主張は激しいくせに、お行儀良く互いを立てるのでリーダーシップが機能しない。

 まあ、色々な要素が重なっているのだと思います。中にはアメリカが苦手な種目が1つぐらいあっても良いのでは、という声もあるようですが、個人的には、アメリカ社会がサッカーを理解するようになれば、きっと良い影響が社会に生まれるようにも思うのです。ただ、そのスピードは、サッカー人口が移民とともに拡大にして、4大スポーツにしがみつく人口比が減ることと、現在は20代以下である「サッカー世代」の人口比がアップするという「自然増」を待つしかないのかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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