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プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
「オバマ=鳩山外交」は脱冷戦思考となるか?
9月17日の木曜日、オバマ大統領は会見を開いて、ポーランドとチェコに設置予定の長距離型のMD(ミサイル防衛)システムの配備を止めると宣言しました。これは、ロシアからの強い抗議を考慮したものであるとともに、これによってロシアがイランへの核ミサイル技術移転を自制することが期待されているようです。ロシアのメドベージェフ大統領は、早速そのような動きを示しています。
勿論、アメリカ国内からは「ロシアの脅しに屈したもの」(共和党のリンゼイ・グラハム上院議員など)という批判が出ていますが、オバマ政権の側からは「長距離型のMDにコストをかけるより、海上に展開した短距離の迎撃ミサイルなどの防衛網を細かく配備した方が効率的」という公式見解で反論がされています。大統領自身は「確かにロシアの軟化や、ロシアがイランへの技術供与を思いとどまるといった効果はあるかもしれないが、あくまで派生的な効果」だとしています。
一見すると、漠然とした対露軟化策であり、同時にコストダウンの追求という消極策に見える話です。ブッシュ時代までの「アメリカは世界の警察官」あるいは「一国主義的な視点で敵味方をハッキリさせた軍事外交」という常識に照らして考えると、まるで弱腰であり、無責任にも見えるのは仕方がないと思います。ですが、ここにオバマ外交の大原則がハッキリと浮かび上がっている、そう考えるべきだと私は思います。
オバマ外交の原則は「米国の関与している対立構図において対立エネルギーを沈静化させる」ことにより「紛争予防のための軍事コストを削減しても米国のその地域への関与を継続できるようにする」ことです。このポーランドとチェコの例がそうであり、今回「アメリカ、イスラエル、パレスチナ」の3者会談の第1回が行われた中東和平に関しても、そのような方向性へ持っていく気配が見て取れます。
このMD戦略の転換と中東外交のスタートが、2009年9月に起きたというのは偶然ではありません。それは、一連の金融危機対策が一段落したということもありますが、それと同時に、日本における政権交替が1つの要素となったという見方も可能です。考えてみれば、鳩山首相が唱える「友愛」という外交方針や、将来的に「アジア共同体を目指す」という思想は、正に「対立エネルギーを抑えて、軍事コストを下げる」というオバマ思想に合致するからです。
勿論、鳩山政権のスタートや、鳩山首相の主張を受けて、オバマ大統領が戦略を変更したというのは、言い過ぎです。そんなことは短い間に決定できるものではありません。ですが、そもそも大きな時代の流れが、国家と国家の軍事的な対立を許さない時代になってきているのだと思います。オバマ大統領も、鳩山首相もそうした「何か大きな力」に後押しされて動き始めた、そう見るのが正しいと思います。
こうした変化のことを、アメリカ一極支配の世界から、世界が多元化する動きだという見方もあります。ですが、一極なのか、多元なのかという議論は実は余り意味がなく、「国家間対立による軍拡に国富を蕩尽する」ことが許されない中、必然的に「対立エネルギーを抑制しなくてはならない」流れになってきている、そう見るべきだと思うのです。
恐らく、これから数カ月の間に、在日米軍にしても、アフガン問題にしても、自民党政権と共和党政権の間では考えられなかったような新しい展開が進むでしょう。日本ではアジアの冷戦は、アメリカと共産陣営の対決であり、それに日本が巻き込まれたり、便乗したりしていたという理解がされています。ですが、オバマの眼からは、自民党の下野こそ、アジアの冷戦の一方の極が溶解して、対立構図を弱める流れが生まれた事件、そうした認識をしているのでは、そんな見方をしておく必要もあると思います。仮にそうであれば、鳩山政権とオバマ政権の日米関係は、全く新しい次元で良好なものになると思います。
冷戦の沈静化は、中国を増長させるとか、米中接近で日本外しになるという議論もありますが、これも違うと思います。オバマは、こうした動きと同じタイミングで、タイヤを巡る通商問題で中国に挑戦を始めています。軍事バランスがどうのという、カネのかかる、そして危険な対立ではなく、舌戦と法律論による平時の問題解決の土俵に、中国も堂々と出てこいというのです。いずれにしても、今週のG20、そして日米首脳会談は非常に楽しみになってきました。勿論、オバマ大統領にしても、鳩山首相にしても、こうしたアプローチが成功するかどうかは分かりません。お互いが同じセンスをもっていても、日米の懸案にすぐに解決がされるとも限りません。ですが、新しい時代は確実に始まっており、その兆候は確実だと思うのです。
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