コラム

中国の人権をめぐって日米の立場が「大逆転」

2017年03月30日(木)16時00分

<日本はこれまで中国の人権問題に積極的に関わろうとしなかったが、最近は徐々に西側諸国のスタンスに近づいている。一方、トランプ政権のアメリカは、人道主義の旗を捨ててしまったようだ>

カナダのグローブ・アンド・メール紙の最近の報道によれば、西側11か国の駐中国大使が2月27日、連名で中国公安部の郭声琨部長に対して手紙を出した。「709事件」(編集部注:15年7月に中国各地で人権派弁護士が一斉に当局によって拘束された事件)で捕まった多くの弁護士が拘束期間中に受けた残虐な取り調べについて、独自調査するよう要求したのだ。

長期にわたって拘束を続け、その間外部と連絡させないやり方は国際人権法に違反しており、中国当局は指定した住居に対象者を住まわせて監視するのをやめるべきだ、ともうながしたという。

11カ国の大使が連名で手紙を出した2日後、つまり3月1日から中国共産党は「宣伝マシーン」を起動。官製メディアを使って残酷な取り調べを受けた謝陽弁護士のニュースは「フェイクニュース」だ、との報道を次々と流し始めた。

私が手紙の表題を見た時の最初の反応は「また日本は参加していないのだろう」というものだった。なぜなら私の印象では、日本は中国の外交や世論に対して一貫して受け身で、共産党は一貫して歴史問題で日本を厳しく非難してきた。日本がそのほかの西側諸国と足並みをそろえて中国の人権問題に関わろうとすることは極めてまれだった。

今回のニュースで意外だったのは、日本が参加したこと、そして私の予想に反してアメリカが署名に参加していなかったことだ。私と同じく中国の人権問題に関心をもつ友人たちにとって、前代未聞の出来事だった。

私は14年に日本外務省の外交官と何度か交流する機会があった。その時、私は彼らに向ってこう提案した。日本はアメリカ、ドイツ、カナダなどのように中国の民主化運動と人権問題に関心を持つべきだ、日本は国連常任理事国になろうと努力しているのではないか、なら信念を持って中国の人権問題を批判するべきだ――と。

あれから3年。日本はだんだん「普通の国」に近づき、中国共産党という「ならず者政権」にノーと言えるようになった。一方でアメリカは「道義」という旗を捨ててしまった。4月初め、中国国家主席の習近平が訪米する。「実用主義ファースト」のトランプ大統領が習近平にどんな妥協をするのか、今から私はとても心配している......。

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ネタニヤフ氏、イランの「演習」把握 トランプ氏と協

ワールド

トランプ氏、グリーンランド特使にルイジアナ州知事を

ワールド

ロ、米のカリブ海での行動に懸念表明 ベネズエラ外相

ワールド

ベネズエラ原油輸出減速か、米のタンカー拿捕受け
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story