コラム

人権派弁護士を有罪にした独裁国家の法治主義

2015年12月28日(月)11時00分

 2015年12月22日、北京市第二中級人民法院は弁護士の浦志強(プー・チーチアン)に懲役3年、執行猶予3年の刑を言い渡した。その日の午後、彼は1年7カ月の間勾留された拘置所を出た。浦志強は中国の有名な人権派弁護士であり、89年の天安門事件では所属する中国政法大学で初めてハンストに参加した学生の1人でもある。

 浦志強が天安門事件後、公安当局によって逮捕されずに済んだのは、当時、彼が学生リーダーではなく、さらに学内で教師や学生たちにかばわれたためだった。このことについて、私は以前「天安門事件で彼は幸いにも逮捕されなかった。今回はその『借金』を返したことになるのでは?」と冗談を言ったことがある。ただ、私はこうも考える。浦志強自身もこんな風に考えていたのではないか? この種の「借金返済」の心の準備と覚悟はかなり前からあったのではないか?――と。

 2014年5月4日、天安門事件25周年の1カ月前の夜、浦弁護士は警察に秘密裏に逮捕された。彼は姿を消す前日、北京で十数人の人たちと天安門事件を記念する研究会を開いたばかりだった。浦弁護士が刑事勾留された罪名は「騒動挑発罪」だ。この後、共産党当局はなんとか彼の有罪をでっち上げようと、その自宅だけでなく事務所を捜索し、同僚も逮捕した。しかし有力な証拠を何も見つけることができず、結局処罰の根拠となったのは微博(ウェイボー)上のいくつかの書き込みだけだった。

 では、浦志強は微博で何を言ったのだろうか。たった数個の書き込みで懲役3年の刑を科すことができるのか。罪の証拠とされた7つの微博の書き込みの中の1つは、「新疆が中国のものだというなら植民地扱いするべきでも、征服者や掠奪者として振る舞うべきでもない」というものだ。

 公然と他人を侮辱した言論だ、と検察が指摘したものはこれだ。「運と血筋だけの申紀蘭(シェン・チーラン、注1)と毛新宇(マオ・シンユィ、注2)がそれぞれ全国人民代表とに全国政治協商会議委員に当選したのは、馬鹿を演じていたか、本当に馬鹿な人々のおかげだ。このことは人民代表大会と全国政治協商会議があるべき組織でないことを説明している。もし『水を得た魚』のようでありたいなら、馬鹿を装うか、馬鹿になるか、だ」

 あからさまな迫害に対して、中国国内と国際社会からの抗議は止むことがなかった。ついに共産党政府は執行猶予をつけることで浦弁護士を釈放するしかなくなったが、それでも抗議は止まらなかった。

 習近平(シー・チンピン)はトップの座に登りつめてから、何度も「依法治国(法によって国を治める)」という考え方を述べている。ただ、同時に「党の絶対的指導」という言葉も強調している。2015年7月以来、共産党政権は100人以上の弁護士を拘束。国際NGOのジャーナリスト保護委員会(CPJ)は12月15日、中国が世界で一番記者を拘束した数の多い国だと最新の報告書で指摘した。

 法律の女神を追い出して、人権と法律を踏みにじる独裁者と化した習近平――こんな状況を、私はマンガで解説することしかできない。

<注1:申紀蘭は中国の有名な「お飾り人民大会代表」。全国人民代表大会の代表を12期連続で務めている。2010年、申は「私は共産党を支持する。代表たるもの党の話をよく聞かねばならない。私はいまだかつて反対票を投じたことがない」と発言。申はまた「人民代表が選挙の過程で選挙民と交流するのは不適当」という奇妙な見解を示したこともある。>

<注2:毛新宇は毛沢東の孫。2010年に人民解放軍の少将に昇進した。現在、解放軍の中で最も若い少将。彼がずっとポストを得てきたのは、彼自身も認めるところだがその出自による。同級生の記憶によれば毛新宇は知力が低く、メディアから「間抜け」扱いされている。共産党の会議が開かれるたびメディアに囲まれる人気の人物でもある。記者たちは毛新宇のつじつまの合わない言葉が、つまらない党の会議の「花」になることを期待しているからだ。>

≪次ページに中国語原文≫

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、日本渡航に再警告 「侮辱や暴行で複数の負傷報

ワールド

米ロ高官のウ和平案協議の内容漏えいか、ロシア「交渉

ビジネス

米新規失業保険申請、6000件減の21.6万件 低

ワールド

サルコジ元大統領の有罪確定、仏最高裁 選挙資金違法
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 5
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「世界の砂浜の半分」が今世紀末までに消える...ビー…
  • 10
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 6
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 7
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story