プレスリリース

芝浦工大が安全・安価なフッ化カリウム由来の新規フッ素化剤の簡便合成法を開発 ~吸湿性が低く長期保存可能な新規フッ素化剤を実現~

2025年06月03日(火)14時00分
芝浦工業大学(東京都江東区/学長 山田純)工学部・田嶋稔樹教授(有機電気化学研究室)ら研究チームは、最も安全かつ安価なフッ素化剤の一つであるフッ化カリウム(KF)から新規フッ素化剤として期待されるテトラブチルアンモニウムフルオリド誘導体(Bu4NF(HFIP)3錯体)を簡便かつ高効率で合成する手法の開発に成功しました。また、合成したBu4NF(HFIP)3錯体は吸湿性が極めて低く、長期保存可能で取り扱い容易なフッ素化剤であることが明らかになりました。
KFは最も安全かつ安価なフッ素化剤の一つとして知られていますが、ほとんどの有機溶媒に難溶であることから、フッ素化反応への利用は限られていました。これに対し、本研究ではKFがフッ素化アルコールに特異的に溶解する特徴を利用して、KFからBu4NF(HFIP)3錯体を簡便かつ高効率で合成する手法を開発しました。
また、無水Bu4NFは最も反応性の高いフッ素化剤の一つとして知られています。しかし、嵩高いテトラブチルアンモニウムイオン(Bu4N+)の対イオンであるフッ化物イオン(F-)は高い反応性を示す一方で、高い吸湿性によってその反応性が著しく低下します。これに対し、本研究で合成したBu4NF(HFIP)3錯体は吸湿性が低く、長期保存が可能でした。さらに、Bu4NF(HFIP)3錯体を支持塩兼フッ素化剤として、有機化合物の電解フッ素化に利用可能であることが明らかになりました。

※この研究成果は、国際学術誌Chemical Communicationsオンライン版に掲載されています。また、同誌の61巻42号の表紙に選出されました。


■ポイント
●安全・安価なKFから新規フッ素化剤であるBu4NF(HFIP)3錯体を簡便かつ高効率で合成する手法を開発
●Bu4NF(HFIP)3錯体は吸湿性が極めて低く、長期保存可能
●Bu4NF(HFIP)3錯体は支持塩兼フッ素化剤として電解フッ素化に利用可能
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/437999/LL_img_437999_1.png
図_新規フッ素化剤として期待されるBu4NF(HFIP)3の簡便合成法

■研究の背景
有機フッ素化合物は、医薬品、農薬、機能性材料、さらには陽電子放出断層撮影(PET)など多様な分野で利用されています。しかし、有機フッ素化合物は天然にはほとんど存在せず、必要に応じて合成する必要があります。有機フッ素化合物の合成にはフッ素化剤が必要となることから、これまでに様々なフッ素化剤が開発されてきました。しかし、多くのフッ素化剤は毒性、腐食性、爆発性などを有し、非常に高価であることが課題となっていました。これに対し、最も安全かつ安価なフッ素化剤の一つであるKFが注目されていますが、ほとんどの有機溶媒に難溶であることがその利用を大きく制限してきました。
一方、最も反応性の高いフッ素化剤の一つとして無水Bu4NFが知られていますが、吸湿性が高いためにその反応性が大きく低下するという課題がありました。そのため、安全・安価かつ反応性の高いフッ素化剤の開発が強く望まれていました。


■研究の概要
本研究では、KFがフッ素化アルコールの一つである1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に特異的に溶解することに着目し、HFIP中でテトラブチルアンモニウムブロミド(Bu4NBr)とのイオン交換反応を行うことで、簡便かつ高効率で新規フッ素化剤であるBu4NF(HFIP)3錯体を合成することに成功しました。また、Bu4NF(HFIP)3錯体は極めて吸湿性が低く、合成後3ヵ月が経過してもほとんど吸水していませんでした。さらに、Bu4NF(HFIP)3錯体を支持塩兼フッ素化剤として有機化合物の電解フッ素化に用いたところ、十分な反応性を示しました。


■今後の展望
本研究で得られたBu4NF(HFIP)3錯体は、新規フッ素化剤として医薬品、農薬、機能性材料、さらにはPET検査用分子プローブの合成などへの応用が想定されます。また、Bu4NF(HFIP)3錯体は、F-とHFIP間の水素結合を制御することで、その反応性と吸湿性のスイッチングが可能になるものと見込まれます。さらに、Bu4NF(HFIP)3錯体はフッ素化剤としてだけではなくイオン液体としての応用展開も期待されます。


■論文情報
著者 : 芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士課程2年 本間 晴香
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士課程2年 望月 愛華
芝浦工業大学工学部 4年 明戸 美沙樹
芝浦工業大学工学部 4年 高橋 菜緒
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士課程修了 北島 庸貴
芝浦工業大学工学部 教授 田嶋 稔樹
論文名: Facile synthesis of R4NF(HFIP)3 complexes from KF and
their application to electrochemical fluorination
掲載誌: Chemical Communications
DOI : 10.1039/D5CC01341K
URL : https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2025/cc/d5cc01341k


■芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/

理工系大学として日本屈指の学生海外派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の大学です。東京都(豊洲)と埼玉県(大宮)に2つのキャンパス、4学部1研究科を有し、約9,500人の学生と約300人の専任教員が所属。2024年には工学部が学科制から課程制に移行。2025年にデザイン工学部、2026年にはシステム理工学部で教育体制を再編し、新しい理工学教育のあり方を追求していきます。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。


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