焦点:賃上げ起点に成長実現、減税政策には距離 骨太原案近く提示へ

6月5日、政府は近く経済財政運営の指針(骨太方針)の原案を提示する。写真は2021年8月、都内で撮影(2025年 ロイター/Marko Djurica)
Takaya Yamaguchi
[東京 5日 ロイター] - 政府は近く経済財政運営の指針(骨太方針)の原案を提示する。賃上げを起点とする成長型経済への移行を柱とし、財源の裏付けのない減税政策とは距離を置く考えを示す。トランプ関税や物価高による景気下押し懸念を払しょくし、経済全体のパイを広げることができるかが焦点となる。
<実質賃金プラス1%明記>
「賃上げこそが成長戦略の要」。6日の経済財政諮問会議に先立つ調整ではこうした文案が追記され、石破茂首相の意向が色濃く反映された。
諮問会議に提示する原案では「日本経済全体で1%程度の実質賃金上昇を定着させ、国民の所得と経済全体の生産性を向上させる」と明記する。価格転嫁や生産性を高める取り組みを散りばめ、「賃上げを起点とした成長型経済」を実現するとうたう。
賃上げを続けられる環境を整えるため、必要な施策は総動員する構えだ。国内投資の拡大やサプライチェーン(供給網)の強靱化も視野に入れる。2030年代初頭に150兆円という意欲的な対日直接投資目標を掲げ、海外の活力を取り込む。
米関税見直しの交渉材料のうち、造船分野では業界再生に向け動きだす。海事供給網の大幅な強靭化を念頭に、日米協力につなげる狙いがある。
対米交渉では「いかなる状況下にあっても、国益を守り抜く」との考えを追記した。米国に対し措置の見直しを強く求めつつ、「あらゆる事態を想定して万全の措置を講じる」との考えも新たに打ち出す。
<信認維持にも配慮>
岸田文雄前政権に続き、「経済あっての財政」とする理念そのものは貫く。経済・物価が想定以上に痛めば、今秋の補正予算編成を視野に入れる。
一方、市場の信認に配慮する姿もみせたのが今回の特徴だ。
歴史的な金利上昇に見舞われ、利払い負担がさらに膨らめば、政策経費に回す財政余力は狭まりかねない。原案では「財源の裏付けがない減税政策によって手取りを増やすのではなく、経済全体のパイを拡大する中で、物価上昇を上回る賃上げを普及・定着させる」と強調し、消費減税を求める与野党からの声をけん制する。
長期金利の指標となる10年物国債利回りは、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)や需給、財政リスクプレミアム(信用コスト)の積み上げで決まる。これまでは財政規律に言及し、不要な信用コストを潰してきたが、今回は需給にも言及する。
新たに「国債需給の悪化などによる長期金利のさらなる上昇を招くことのないよう、国内での国債保有を一層促進するための努力を引き続き行う必要がある」と追記。安定消化の重要性を訴えた。
<米仏格下げの余波>
2040年ごろの「名目1000兆円経済」を視野に入れる中、政権与党からは「国債の格付けにも目を配る必要がある」(政調幹部)との声も聞かれる。
日本国債の格付けは「シングルA」格で、一歩間違えばB格に転落する瀬戸際の状況にある。A格であることを投資条件とする海外の機関投資家からは、厳しい目線が向けられかねない。
骨太原案に先立ち、自民党の財政改革本部は「フランスでは昨年12月、米国では今年5月に国債が格下げとなり、同時に銀行も格下げとなった。財政が経済の足を引っ張っては本末転倒」との考えを提言文書に盛り込んだ。
提言では「国債の格下げは利払い費を増やすだけでなく、銀行の貸出にも影響を与え、中小零細企業を含む企業経営に大きな打撃を与える」とし、背景にある危機感をにじませた。
国内総生産(GDP)に占める債務残高比率の上昇や景気後退は、国債の格下げにつながりやすい。産業界の先行きが、利上げ含みの政策金利と信用コストの二重苦に見舞われるかどうかは今後、正念場を迎える。