プレスリリース

在宅勤務で歩数が4,000歩減少、座位時間が70分増加

2024年10月17日(木)14時00分
公益財団法人 明治安田厚生事業団は、首都圏在住勤労者の身体活動を活動量計で実測し、在宅勤務の頻度との関連性について検討しました。この研究成果が、身体活動と公衆衛生に関する国際学術誌「Journal of Physical Activity and Health」に2024年10月8日付で早期公開されました。


<ポイント>
◎首都圏在住勤労者の身体活動を活動量計で実測し、在宅勤務の頻度との関連性について検討しました。
◎在宅勤務が多い勤労者は1日の身体活動量が少なく、座位行動が多いことがわかりました。例えば、週に5日以上在宅勤務を行う勤労者の1日あたりの歩数は、全く行わない勤労者に比べて半分以下であることが確認できました。
◎在宅勤務に関連した活動量の低下は、性別、年齢層、教育歴、生活習慣改善に対する関心の有無により異なる傾向が見られました。

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/413865/LL_img_413865_1.jpg
研究結果の概要

<概要>
公益財団法人 明治安田厚生事業団 体力医学研究所(本部:東京都新宿区、理事長:生井 俊夫)が行う明治安田ライフスタイル研究(Meiji Yasuda LifeStyle study:MYLSスタディ(R))*1では、首都圏在住勤労者の在宅勤務の頻度と、活動量計*2で実測した1日の座位行動や身体活動(体を動かしている時間や歩数)の関連性を検討しました。その結果、在宅勤務が多いほど身体活動量が少なく、座位行動が多いことがわかりました。例えば、週5日以上在宅勤務をしている人の1日の歩数は、毎日出社している人の半分以下であることが明らかになりました。さらに在宅勤務に関連した活動量の低下は、女性、40歳以上、高校卒以下、生活習慣の改善に無関心な勤労者でより大きいことが明らかになりました。
これらの知見は、活動量が低下しやすい勤労者の健康を守り長期的な在宅勤務を支援するためにも、身体活動の促進を目的とした対応策の開発と実装が必要であることを強調しています。

※MYLSスタディは、公益財団法人 明治安田厚生事業団の登録商標です。


<背景>
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延により、在宅勤務という働き方が急速に普及しました。これまでの研究から、在宅勤務によって通勤時間がなくなることで、裁量時間や睡眠時間が増加するというメリットがあると報告されています。一方で、座りすぎをはじめとした不活動状態はさまざまな疾病のリスクを高めることがわかっており、在宅勤務により活動量が減ることで健康に悪影響を及ぼす可能性も指摘されています。
これまでにいくつかの研究から、出社日に比べ在宅勤務日には身体活動量が減少し、座位行動が増加することが報告されてきました。しかし、こうした研究は主にCOVID-19のパンデミック急性期に行われており、感染症対策(例:商業・運動施設の閉鎖や外出制限など)の影響を受けている可能性があります。加えて、アンケートで身体活動量を調査している場合がほとんどで、正確に実情を把握できていない可能性も残ります。また、どのような集団において在宅勤務による活動量の低下が大きいのかについてはよくわかっていません。そこで私たちは国内で初めて活動量計による実測データを用い、感染症対策が緩和された時期に勤労者を対象にして、在宅勤務の頻度と身体活動・座位行動の関連性とその異質性を調べました。


<対象と方法>
本研究は2022年4月~2023年3月にかけてMYLSスタディ(R)に参加した勤労者(オフィスワーカーや営業職)1,133名を対象とした横断研究です。なお研究期間中に緊急事態宣言やまん延防止等重点措置は発令されておらず、日常生活に影響を与えると考えられる感染症対策(例:商業・運動施設の閉鎖、外出制限など)は求められていませんでした。
対象者は腰に活動量計を装着し、普段の身体活動量や座位行動時間を測定しました。併せて、調査票を使って1週間の在宅勤務頻度を調査しました。これらの情報を基に、在宅勤務の頻度と身体活動・座位行動の関連性を検討しました。また、在宅勤務に関連した活動量の低下が顕著な集団を調べるために、社会人口学的特性や健康状態などで層別化した分析も実施しました。分析の際は、年齢、性、教育年数、暮らし向き、子どもの数、職種、雇用形態、1週間の労働時間、BMI、主観的健康感、心理的ストレス、行動変容ステージ、活動量計の装着時間の影響を統計学的に調整しました。


<結果>
本研究から主に3つの知見が得られました。第一に、週1-2日であっても在宅勤務を実施している人は、まったく実施していない人よりも身体活動量が少なく、座位行動が多いことがわかりました。第二に、在宅勤務の頻度が多いほど活動量が少ないことが明らかになりました。例えば、毎日出社している人に比べて、週5日以上在宅勤務している人の1日の歩数は約4,000歩少なく(それぞれ7,215歩、3,194歩)、座位行動が約70分多い(それぞれ584分、658分)ことが示されました(図1)。最後に、こうした在宅勤務に関連した活動量の低下が顕著な集団がいることが明らかになりました。
具体的には、40歳以上、女性、教育歴が高校卒以下、運動や食習慣の改善に対して無関心な勤労者において、在宅勤務に関連した活動量の低下が著しいことがわかりました(図2)。

画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/413865/LL_img_413865_2.jpg
図1. 在宅勤務の頻度と1日の座位行動時間・歩数の関連性
※座位行動時間や歩数は、年齢、性、教育年数、暮らし向き、子どもの数、職種、雇用形態、1週間の労働時間、BMI、主観的健康感、心理的ストレス、行動変容ステージ、活動量計の装着時間を調整した値

画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/413865/LL_img_413865_3.jpg
図2. 属性別にみた在宅勤務に関連した身体活動時間の低下

<まとめ>
本研究から、感染症対策が緩和された現在においても在宅勤務を行うことで、活動量が大幅に低下する可能性があることがわかりました。また、こうした活動量の低下が著しい集団(例:女性や生活習慣の改善に無関心な勤労者)がいることも確認しました。
これまでの研究から、座りすぎや不活動状態が心身の健康に悪影響を及ぼすことがわかっており、在宅勤務の長期化により、新たな健康リスクが高まることが懸念されます。本研究の成果は、活動量が低下しやすい勤労者の健康を守り長期的な在宅勤務を支援するためにも、身体活動の促進を目的とした対応策の開発と実装が必要であることを強調しています。
なお、本研究では、在宅勤務頻度と身体活動や座位行動の因果関係は明らかになっていません。また、対象者は首都圏在住のオフィスワーカーや営業職が主であり、在宅勤務を行う環境や通勤手段等が異なる他の地域・職種の勤労者に対して、得られた結果が当てはまるかについては、更なる検討が必要です。


<発表論文>
・掲載誌
Journal of Physical Activity and Health
・論文タイトル
Associations of working from home frequency with accelerometer-measured physical activity and sedentary behavior in Japanese white-collar workers: a cross-sectional analysis of the Meiji Yasuda LifeStyle study
・著者
Naruki Kitano, Yuya Fujii, Aya Wada, Ryoko Kawakami, Kaori Yoshiba, Daisuke Yamaguchi, Yuko Kai, Takashi Arao.
・DOI番号
https://doi.org/10.1123/jpah.2024-0147


<用語解説>
1. 明治安田ライフスタイル研究:明治安田新宿健診センターを拠点として、運動や座りすぎを中心とした生活習慣が健康にあたえる影響の解明を目的に行われるコホート研究。
2. 活動量計:3軸加速度計センサーを搭載し、日々の身体活動や座位行動を詳細に評価することができる機器。


<利益相反>
著者には開示すべき利益相反はありません。


<財源情報>
本研究はJSPS科研費(17K13238; 18K17930; 20K19701)および厚生労働科学研究費補助金(22JA0501)の助成を受けて行われました。記して深謝します。


詳細はこちら
プレスリリース提供元:@Press
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