コラム

手段を選ばず悲惨な映像を売って稼ぐ、報道の怪物を生んだ社会

2015年08月07日(金)17時45分

 社会学者マイク・デイヴィスが大都市ロサンゼルスを縦横無尽に掘り下げた『要塞都市LA』では、郊外とインナーシティの現実に対する認識のズレが以下のように説明されている。

「ロサンゼルス・サウスセントラルやワシントンDCのダウンタウンのように、実際に街での暴力事件が急増した場所であっても、死体の山が人種あるいは階級の境界を越えて積み上げられることは滅多にない。だがインナーシティの状況について直接肌で感じた知識を持ち合わせていない白人中産階級の想像力の中では、認識された脅威は悪魔学のレンズを通して拡大されるのだ」

 マイケル・ムーアは『ボウリング・フォー・コロンバイン』のなかで、ロサンゼルスのインナーシティに足を運んで通行人と話をし、インナーシティの犯罪や暴力を扱うテレビ番組の製作者にインタビューすることで、テレビで流通しているインナーシティの映像が現実を反映していないことを明らかにする。テレビは、犯罪や暴力という恐怖の種ばかりをまき散らしているのだ。

 ロサンゼルスを舞台にしたダン・ギルロイ監督『ナイトクローラー』の背景には、そんな現実に対する認識のズレや恐怖を売り物にするテレビの世界がある。タイトルの"ナイトクローラー"は、テレビ局に悲惨な映像を売って稼ぐ報道スクープ専門の映像パパラッチを意味する。学歴もコネもなく、仕事にあぶれた主人公ルーは、事故現場を通りかかった時に偶然その存在を知る。ビデオカメラを手に入れた彼は、警察無線を傍受して事件や事故の現場に駆けつけ、被害者にカメラを向けるようになる。

 この映画でまず注目したいのは、ルーと彼が映像を持ち込んだテレビ局で出会う女性ディレクター、ニーナとの関係だ。彼女はこんなアドバイスをする。「欲しいのは刺激的な画。望ましいのは被害者が郊外に住む白人の富裕層で、犯人はマイノリティや貧困層」。それを鵜呑みにしたルーは、スクープ映像を次々にものにし、成功を収めていく。だがもちろん、経験もない彼が、そんなアドバイスだけでライバルを蹴落とせるはずもない。

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、イタリア首相の発言に批判 ホルムズ海峡

ビジネス

米国株式市場=続伸、S&P最高値に迫る 中東情勢解

ワールド

世界経済、中東の戦闘が短期終結なら回復可能=IMF

ワールド

ニューヨーク市営食料品店1号店、イーストハーレムに
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事の新シナリオ
特集:台湾有事の新シナリオ
2026年4月21日号(4/14発売)

地域紛争の「大前提」を変えた米・イラン戦争が台湾侵攻の展開に及ぼす影響をシミュレーション

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍の海上封鎖に中国が抗議、中国タンカーとの衝突リスク高まる
  • 2
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 3
    高さ330メートルの絶景と恐怖 「世界一高い屋外エレベーター」とは
  • 4
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ…
  • 5
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 6
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 8
    トランプを批判する「アメリカ出身のローマ教皇」レ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 5
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 6
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 7
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 8
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 9
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 10
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story