コラム

矢野財務次官が日本を救った

2021年11月01日(月)16時00分

この結果、各党のバラマキリスト一覧比較表のようなものがテレビのワイドショーを一時的には賑わせたが、その後は、各党とも、バラマキを有権者にアピールすることを止め、その結果、ワイドショーも一巡してしまえば、後はこの話題を取り上げなくなった。

この結果、政策論争の焦点がなくなり、与野党の政策論争がなくなってしまったのである。

同時に、選挙の争点は、当初はコロナ対応の是非だったのが、感染者が急減して、有権者はコロナへの不満をきれいさっぱり忘れてしまい、最重要項目は経済と各党は言い出した。そして、その経済も、バラマキ論争はやりにくくなったため、争点がなくなってしまった。成長か分配か、という論争になりそうだったが、結局、どの党も成長も分配も、ということになり、かつどちらが先か、両方だ、というような抽象論に終始し、イメージ合戦の域を出なくなってしまった。

官僚も国家を救う?

すなわち、矢野論文をきっかけに、バラマキ合戦がエスカレートしそうなところだったのが、それがやりにくくなり、そうなると、具体的な経済対策のアイデアがない各党は、別のところに争点を求めたが、コロナも下火で争点はなく、選挙は盛り下がっていった。その結果、各党と党首のイメージ合戦になり、改革イメージの党と党首で売った維新が躍進しただけに終わった。一方、岸田政権は何をするか不明だが、イメージは優しそうで悪くはなく、攻撃的な野党よりもましなイメージになり、争点のない選挙で、自民党は負けないことになった。

矢野財務次官は、与野党を批判したのではなく、バラマキという政策を批判したのであり、政治的な意図はまったくなかったはずで、「やむにやまれぬ大和魂」からの悲痛な叫びを放っただけだったが、その結果、政治家からの攻撃で防戦一方だった国民のためを自負する官僚の叫びが政党を守勢に回らせ、バラマキ合戦のエスカレートを抑え込んだのである。攻撃は最大の防御だった。

結果として、「やむにやまれぬ大和魂」が、選挙の結果とは関係なく、国家破産という悪夢の実現から日本を(一時的にせよ)救ったのである。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ政権のはしか流行対応に懸念=ロイター/イプ

ビジネス

投資家のドル資産圧縮は中立への修正、ドル離れでない

ビジネス

独連銀総裁、準備通貨として米ドルの役割強調 ユーロ

ビジネス

三井住友FG、今期純利益1.3兆円の予想 関税影響
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 3
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」にネット騒然
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 6
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 7
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 8
    「奇妙すぎる」「何のため?」ミステリーサークルに…
  • 9
    トランプは勝ったつもりでいるが...米ウ鉱物資源協定…
  • 10
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 4
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 7
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 8
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 9
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新…
  • 10
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story