コラム

日銀の今回の緩和を名付けてみよう──それは「永久緩和」

2016年09月26日(月)13時39分

「テーパリングではない」──9月21日に日銀で会見する黒田総裁 Toru Hanai-REUTERS

 今日の追加緩和は、追加緩和なし、という解釈が主流のようである。そんな馬鹿な。

 意見がほぼ同じであると思っているBNPパリバ証券の河野龍太郎氏も、今回は予想通り追加緩和はなかった、と述べている。

 確かに、テーパリング(量的緩和の縮小)と解釈されないように、日銀の黒田東彦総裁は最大の注意を記者会見で払った。そこが今回の山場であっただろう。記者会見での質問はテレビ東京の大江麻理子アナウンサー、読売新聞の越前屋知子記者が頑張っていて、アベノミクスの女性活躍はここでは実現されていたが、終盤のテーパリングじゃないんですか、という別の記者による、人畜無害のようなとぼけた声の質問の罠に、黒田氏はもっとも慎重に対処していた。

 今回の措置で緩和縮小と受け取られかねないのは、量が減る可能性があることと、10年超の金利、超長期債の利回りがどうなるか不透明で、大幅上昇もありうることだ。

緩和縮小は永久にできない

 10年超の金利を上昇させ、イールドをこの領域で立たせることと、国債買い入れ総量を減らすのが、今回の一つの目的ではある。しかし、テーパリングと思われてはいけないので、最大限のサービス、10年物の金利のターゲットはゼロ%として、ほぼ現状維持とした。これで、テーパリングの可能性があり、緩和縮小じゃないか、と解釈されないようにしたのだが、そうなってしまうと、要は緩和とは金利であるから、長期金利はほぼ永久に0%に張り付くことになる。なぜなら、安定的にインフレ率が2%を超えるまで、緩和を続けるという、もう一つのサービスをしてしまったからだ。これは、超長期金利の上昇で引き締めという解釈に対して、以前よりもコミットメントが強い、長期に低金利を約束する強力な措置で、超長期金利の上昇を抑える効果があると主張できるようにした可能性がある。

 しかし、この2%超のコミットメントは強すぎる。これが今日の素晴らしい枠組みを台無しにしてしまった可能性がある。

【参考記事】日銀は死んだ
【参考記事】中央銀行は馬鹿なのか

 なぜなら、2年で2%は無理であることはもはや明らかだが、同時に、通常の経済状態において、2%超が継続することが想像できないことも明らかだからだ。今後、財政破たんによる名目金利上昇はあり得ても、インフレ率上昇はあり得ないから、永久に緩和を縮小はできない。すると、長期金利は永久にゼロ%となる。

 これまでは、いつか出口が来るものだと思っていたが、今回の枠組みを素直に解釈すれば、テーパリングだろうが、国債の買い入れ額がいくらになろうが、10年物の金利は永久にゼロ%なのであり、「永久緩和」になってしまう。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国中銀、ウォン安など金融安定リスクへの警戒必要=

ビジネス

米国との貿易協定、来年早々にも署名の可能性=インド

ビジネス

26年度予算案の想定金利3%程度で調整、29年ぶり

ワールド

メルセデス、ディーゼル排ガス不正で米州と和解 1.
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story