コラム

ひろゆき氏の炎上「辺野古ツイート」に見る冷笑主義にも称賛できる点はある

2022年10月12日(水)09時32分

ひろゆき氏=マジョリティの態度

ひろゆき氏はネット世論の権化のような人物であり、ネット世論が服を着て歩いたらこうなるだろうという発言を日々繰り返している(それが彼の魅力でもある)。あらゆる事象について冷笑し、茶化し、皮肉り、揶揄する。そうして揚げ足を取って、一歩引いたところで俯瞰する。これはツイッターに代表されるネット世論に通底する態度であり、ひろゆき氏がこの世界と接する時のスタンスでもある。

そう考えると、ひろゆき氏の今般の言動は、中央つまり本土に住む者たちの辺境に対する無知と無関心を露呈するような出来事だったのだろう。沖縄の背負ってきた歴史を考慮せず、中央によって翻弄され続けた宿命を解さなければ、自然とああいう態度になるのだろう。抗議運動の場での笑顔とピースをしたり、看板を見て「汚い字」と評し、「沖縄の人って文法通りにしゃべれない」と発言したりした態度のことだ。

そして、「座り込みは事実ではない」とのひろゆき氏の主張は、沖縄問題に関心のない人々により強く訴求する。過去の歴史や文脈をすっ飛ばしてツイートで示された断片のみを捉えれば、「座り込みって言っているけど、嘘じゃねえか」と見えてしまうのだ。

私自身も、沖縄問題についてはごく表層的なことしか知らない。それでも、最低限度の知識があれば、たとえ主張や手段に賛同しなくても、抗議運動をしている人々に対してもう少し丁寧かつ穏当な態度で接しただろう。少なくとも、冷笑を目的としたような態度は取らないし、取れない。

冷笑と俯瞰を繰り返す態度は、かつてネット黎明期からしばらくの間、とてもクールで洗練された作法に見え、知的であるとすら映っていた。でも、実はそうではないことに、そろそろ気づかなくてはいけない。そんな態度は、本当はとても格好悪い。

なーに本気になってんの、ネタにマジレスカコワルイ、ははは冗談ですよ冗談、結局どっちもどっちだよね、それって○○すれば良いだけじゃん。――ネット世論のこうした態度に、私はとてもウンザリしている。

結局、ひろゆき氏が悪いというより、本土に住む者たちが無知で無関心過ぎるのだろう。ひろゆき氏は、沖縄に対する本土の無関心を代弁していたのだ。ただ、この問題をどう解決したら良いのか、私には分からない。「関心を持て!」と言われて、持てるようなものではないからだ。

埼玉で子育てに奔走しているシングルマザー、東京で自転車を漕いでいるフードデリバリーの配達員、神奈川のブラック企業で働いている新人サラリーマン。そうした人々に対して「沖縄の基地問題が抱える誤謬性について再考を」と熱弁を振るったところで、無理というものだ。そんな余裕はないわけで、沖縄の米軍基地なんて自分には関係ない話、と言い聞かせて終わってしまうだろう。自分たちが平和な日々を過ごす代償を、どこか遠くの人たちが背負っていることには目をつぶりながら。

ネット世論の嫌なところはもう一つ、すべての言説を「敵か味方か」の二分法に飲み込んでしまうところだ。この記事も、ある層の人々からは「こいつは敵だ」「こいつは味方だ」という二色しかない世界のなかに閉じ込められるに違いない。コンピューターが0と1の二進法で成り立っているからなのか、ネット空間は二分法に依らない淡いグラデーションの世界を許してくれないのである。

今回、ひろゆき氏に功績があったとすれば、私を含む多くの人々に、何はともあれ沖縄問題について注意を向けさせたことだろう。これはきっと、ネット世論を喜ばせる冷笑が得意な彼にしかできなかったことであり、その点は称賛に値する。良かったら、もう一度辺野古に行ってもらえたら格好良いのだが。

プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。現在は大分県別府市在住。主な著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHPビジネス新書)、『香港少年燃ゆ』(小学館)、『一九八四+四〇 ウイグル潜行』(小学館)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送フーシ派がイスラエル攻撃、イエメンの親イラン武

ワールド

再送-UAEのアブダビで5人負傷、火災も発生 ミサ

ワールド

タイ新政権、来週発足へ アヌティン首相が表明 

ビジネス

中国の大手国有銀3行、25年の利益ほぼ横ばい 不動
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 2
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 9
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 10
    「酷すぎる...」ショッピングモールのゴミ箱で「まさ…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 10
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story