最新記事
シリーズ日本再発見

サンリオファンが愛する『いちご新聞』はなぜ誕生したのか...「いちごの王さま」の「ファンシーな教養主義」

2024年03月15日(金)09時25分
帆苅基生(弘前大学教育学部助教)

サンリオのキャラクターが『いちご新聞』紙上で取り上げられ、特集されることは、創刊当初から現在に至るまで行われている。

しかし「いちごの王さま」が他のキャラクターと違う特殊な成立事情を抱えているのは、『いちご新聞』の中で「いちごの王さま」という名前がまず記されて、その後キャラクターのイラストが『いちご新聞』紙上で披露されたという経緯があるからである。

つまり「いちごの王さま」とは『いちご新聞』の中で、『いちご新聞』とともに、形づくられた存在であったのだ。


興味深いのは、「いちごの王さま」が『いちご新聞』の中で、キャラクターとして確立していくと、反比例するように辻信太郎の名前が消えていくことだ。当初「いちごの王さま=辻信太郎」と署名されていた「いちごの王さまのメッセージ」から辻の名前が消されている。

創刊号では、「いちごの王さまのメッセージ」と一面に掲載され、末尾はこのような形で締めくくられる。

「いちご新聞」は、こんな強い大きな望みの中で、今日発刊されました。 私、いちごの王様なんていわれてはずかしいけれど、まっかな希望にもえたいちごが、どんどん育っていくために、力の限りにつくしていきたいと思います。
辻信太郎(1975年4月1日号)

創刊当初は、サンリオの社長である辻信太郎が「私」としてメッセージを発していた。しかし徐々に「辻信太郎」の名前は消える。

つまり「いちごの王さま=辻信太郎」と明示することが回避され、辻自身の思いが仮託されたサンリオのキャラクターが『いちご新聞』の中でメッセージを発するという形に変化していくのだ。

「いちごの王さまのメッセージ」一つをとっても最終的にキャラクターが前面に出てくるところに、サンリオらしいファンシーさが表れていると言えるだろう。


帆苅基生(Motoo Hogari)
弘前大学教育学部助教。青山学院大学大学院博士後期課程修了。博士(文学)。主要業績:「石川淳『狂風記』論──〈江戸〉がつなぐもの」(『最後の文人 石川淳の世界』集英社新書、2021 年)、「石川淳『六道遊行』と建部綾足──新戯作派の一九八〇年代」(『アナホリッシュ國文學』第11 号、2022 年)。


sanrioshoei-160.jpg

サンリオ出版大全:教養・メルヘン・SF文庫
 小平麻衣子、井原あや、尾崎名津子、徳永夏子[編]
 慶應義塾大学出版会[刊]

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

ニューズウィーク日本版 トランプ関税15%の衝撃
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月5日号(7月29日発売)は「トランプ関税15%の衝撃」特集。例外的に低い税率は同盟国・日本への配慮か、ディールの罠

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 10
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中