最新記事
シリーズ日本再発見

日本の加熱式たばこは「ガラパゴス市場」か「テスト市場」か

2018年06月04日(月)16時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

(左から)JTのPloom TECH、BATのglo、PMIのIQOSが日本で激しいシェア争いを繰り広げている From Left: Issei Kato-REUTERS; Kim Kyung-Hoon-REUTERS; Issei Kato-REUTERS

<日本のみで繰り広げられている加熱式たばこ戦争。これは世界の潮流から外れたトレンドなのか>

ビジネスの世界で「ガラパゴス」と言えば、いいイメージがない。

90年代から2000年代前半にかけ、日本の携帯電話は世界的に高い性能や機能を誇っていたが、日本という孤立した環境で最適化が著しく進んだ結果、世界市場では全く勝負できないものになってしまった。アップルのiPhoneをはじめとするスマートフォンが日本に押し寄せると、日本の「ガラケー」は駆逐されてしまう。悪しきガラパゴス化の例だ。

そんな日本で今、新たな「ガラパゴス」製品が出現しつつあるように思える。加熱式たばこだ。Ploom TECH(プルーム・テック)、IQOS(アイコス)、glo(グロー)という加熱式たばこ3製品が「三国志」さながらの激戦を繰り広げ、連日ニュースにも取り上げられているが、実はこの加熱式たばこが普及しているのは、世界でも日本だけと言っていい。

これらの加熱式たばこも、ガラケーと同じ運命を辿るのだろうか。いや、そうとは言えないだろう。

まず、日本のメーカーが日本市場で競い合っていた携帯電話と異なり、アイコスは米フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)、グローは英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)と海外メーカーの製品。対するプルーム・テックは日本たばこ産業(JT)の開発したエマージングプロダクトだ。

海外企業が参入していることだけが理由ではない。日本市場はガラパゴスというよりむしろ、世界進出を見据えたテストマーケティングの市場だ。世界のたばこ市場はいま転換期を迎えており、従来の紙巻きたばこに代わる新型たばこに大きな注目が集まっている。その1つが日本で普及しつつある加熱式たばこで、実際、各社は日本を足掛かりに世界展開へと乗り出しているのだ。

アイコスは2014年に日本で先行発売されたが、「PMIは当初はテスト市場と考えていたはずだ」と野村證券アナリストの藤原悟史氏は言う。「想定を超える売れ行きがデバイス供給の問題に繋がったのだろう」

電子たばこと加熱式たばこの違い

ここで整理しておくと、いわゆる新型たばこは2種類に分けられる。1つは欧米で主流の、たばこ葉を含まず、ニコチンを含む液体を加熱することで発生する蒸気を楽しむ製品。英語ではE-cigaretteやE-Vapor、Vapeなどと呼ばれ、日本語では「電子たばこ」と呼ばれる(ただし、加熱式たばこも「電子たばこ」と呼ばれる場合があり注意が必要)。

ロンドンを本拠とする大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤングのレポートによれば、電子たばこ市場は世界的に急成長しており、調査対象の7カ国(イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、ポーランド、ロシア、韓国)で2013~15年にユーザーが86%増えたという。17年のグローバル市場は約120億ドルと推定されている。

もう1つの新型たばこが、加熱式たばこだ。たばこ葉を使うが燃焼させず、加熱により発生する蒸気を楽しむ製品で、英語ではT-VaporやHeat-not-burn tobaccoなどと呼ばれる。市場規模はグローバルで約50億ドル(17年推定)だが、その9割が日本だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

お知らせ=重複記事を削除します

ビジネス

高市首相、18日に植田日銀総裁と会談 午後3時半か

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合

ワールド

ポーランド鉄道爆破、前例のない破壊行為 首相が非難
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中