最新記事
シリーズ日本再発見

日本に定住した日系ブラジル人たちはいま何を思うのか

2017年11月20日(月)18時14分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

小さな町の物語にある「多文化共生」へのヒント

本書で著者は、大泉町とその周辺に住む、さまざまな日系ブラジル人から話を聞いている。冒頭の祥子さんもその1人だが、彼女はやがて、総合的なブラジル人学校を求める声が高まったことから、語学教室を発展させて在日ブラジル人学校「日伯学園」を設立。2003年にはブラジル教育省の認可も受け、さらに、高校課程修了時に日本の大学受験資格も取得できるようになった。

高野さん夫妻は、自分の子供たちには日本語と日本文化をしっかり身につけさせ、日本人としてのアイデンティティーを養わせてきたという。今かつての夫妻と同じ立場の日系ブラジル人にとって、こうした活動や取り組みは、大きな支えとなっているに違いない。

日本に暮らす日系ブラジル人の中には、思うように日本語を話せなかったり、日本人らしくない顔立ちだったりが原因で、つらい経験をした人もいる。自分は一体どちらの国の人間なのか、アイデンティティーに悩む人も多いという。また、社会保障をはじめ解決すべき問題も多い。

だが、あの入国管理法改正から四半世紀以上が過ぎ、日本で育った新しい世代による新しい文化も着実に根づいている。彼らは日本を愛し、日本人らしい気質を併せ持ちながらも、ブラジルへの愛情や誇りもまた同時に抱いている。もっと日本の人たちにブラジル文化を知ってもらいたい、と活動を始めた人もいる。

著者はこう記す。


この町の日系の人々と正面から向き合うことで、実に多様な人生を知ることができた。彼ら一人ひとりの来し方は、老若男女にかかわらず想像を遥かに超えた彩りに満ち、滋味深く、時に劇的なものだった。(213~214ページ)

ブラジルに限らず、あらゆる国からの移民・労働者は今後も確実に増えていく。島国というハンデもあって、日本人の多くはいまだに外国人との付き合い方に不慣れかもしれない。だが、この小さな町の物語を通して「多文化共生」へのヒントを読み取ることもできるはずだ。

iminbookcover_150.jpg
『移民の詩――大泉ブラジルタウン物語』
 水野龍哉 著
 CCCメディアハウス

japan_banner500-season2.jpg

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と「ディ

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正

ワールド

米国、コロンビア大統領に制裁 麻薬対策せずと非難

ワールド

再送-タイのシリキット王太后が93歳で死去、王室に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 2
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 3
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元に現れた「1羽の野鳥」が取った「まさかの行動」にSNS涙
  • 4
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 9
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 10
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中