コラム

暴露本で問われるカーラ・ブルーニの実力

2010年09月23日(木)10時28分

 同じようなことをしているのに大バッシングを受ける人もいれば、何となく許されてしまうお得な人もいる。仏大統領夫人のカーラ・ブルーニは、何となく後者な気がする。

 米大統領夫人のミシェル・オバマがリゾート地で娘と過ごしたバカンスのせいで批判を浴びたのは記憶に新しい。国も状況も違うとはいえ、カーラ・ブルーニの場合はどうだろう。サルコジ大統領との派手なバカンスが否定的に報じられた直後には、外遊での立ち居振る舞いがエレガントだと絶賛される。サルコジの支持率が地に落ちているときに、映画女優デビューして浮かれていてもおとがめなし。9月半ばの世論調査によれば、フランスの有権者の54%がブルーニのことを好きだと言い、71%が海外でのフランスのイメージアップにブルーニが役立っていると答えているという。こんなポジションを維持できるのは、各国のファーストレディーと並んでも抜群に目立つルックスのせいか、それともサルコジと結婚する前にモデルや歌手としてしっかり自分の世界を完成させていたせいか、フランスのお国柄のせいか......。

 そんなブルーニの「嫌われない力」が試されるときが来たのかもしれない。先ごろフランスで、ブルーニの「真実」を描いたとする暴露本が相次いで発売された。『カーラ――秘密の生活』は、元ジャーナリストのベスマ・ラウリがブルーニの友人や仕事仲間を取材して執筆。それによれば、ブルーニの慎み深く若々しい大統領夫人というイメージは「大統領府によってつくり上げられたもの」で、実際の彼女は慈善事業に消極的で男性との付き合いも奔放、計算高くサルコジを振り回す女性だという。著者は大統領府が出版差し止めの圧力をほのめかしてきたとも明かしているが、個人的にはこの程度の暴露はどうということもないように感じる。

 もう1冊の方は、ブルーニ本人や周辺人物へのインタビューなどを重ねて執筆しているだけにより深刻度が高い。『カーラとその野心』は、ベストセラーの伝記作品も執筆したことのある2人の作家による暴露本。この中では、こんな事実が明かされている。

 3月にサルコジ夫妻にW不倫疑惑がもち上がった際、ブルーニはこの噂の出どころを突き止めるため、警察当局や諜報機関の内部資料などを入手して犯人探しをしたのだとう。折りしも最近、仏大手ルモンド紙が、7月に騒動となった贈収賄事件の報道に関して同紙の記者をスパイしていたとして大統領府を告訴したばかり。権限を逸脱したサルコジ夫妻の諜報行為に批判が集まる可能性もある。

 さらにこの本によれば、ブルーニは「サルコジがもっと金儲けに力を入れるべき」だと考えていて、トニー・ブレア元英首相が引退後に講演などでがっぽり稼いでいるのに「感銘を受けて刺激された」とか。

 こんな記述を並べ立てられた暴露本2冊の発売で、ブルーニもついに非難の吊るし上げを食らうのか? どうもフランス国民は冷静に受け流すだけ、な気がしてならない。

 ちなみに、『カーラとその野心』の中で、ミシェル・オバマがブルーニに話したという言葉が記述されている。ホワイトハウスで2人が3月に私的な会話を交わした際、ミシェルはホワイトハウスの生活について「聞かないで!まるで地獄よ。耐えられない」と答えたという。

 こちらの方は、ミシェルの報道担当官やフランス大使館が必死で事実を否定するなど、対応に追われる羽目になっているようだ。

――編集部・高木由美子

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story