コラム

菅直人のセコいご都合主義

2010年06月22日(火)17時12分

「セコいよなぁ」 「自民党が(10%と)言っているからやるって、どうなの?」──。

 先週、菅直人首相が自民党の消費税率を10%に引き上げる案を「ひとつの参考にする」と語ったマニフェスト発表会見が終わった直後、報道席にいた周りの記者からそんな声があちこちで聞こえた。

 確かに「セコい」が、会見で筆者がそれ以上にセコいと感じたのは、消費税率の問題のみを超党派で議論するという菅のご都合主義だ。

 もっとも、日本の財政状況は国家的な危機だし、超党派で議論するべき問題ではある。ただ民主党の場合、「増税」という国民負担が増えるというある意味で不人気な政策にのみ「超党派」の看板をつけて他党にも一緒に泥をかぶってもらおうという姿勢が見え隠れしているような気がしてならない。

 郵政改革など、本来ならば超党派で議論するべき重要な政策は他にもあるはずだが、通常国会での民主党の強引な立ち振る舞いを見る限り、他の問題について彼らが超党派で議論する意思も度量もあるようには見えない。

 マニフェストについても「セコい」と言わざるを得ない。

 かつて菅は、当時の小泉首相から「この程度の約束を守れなかったことは大したことではない」という答弁を引き出し、「すんごい答弁ですねぇ」と返したことがある。その菅が、今や「踏襲すべきものは踏襲し、改めるべきものは改めていきたい」と主張している。

 厳しい財政状況に適応するための現実主義とも受け取れるが、それ以上に、単純に見通しが甘かっただけなのではないだろうか。08年のリーマン・ショックによる世界的な金融危機で税収が減るのは素人目にもわかっていたこと。政権を取ってから税収が予想以上に低かった、と言い訳するのはあまりにもお粗末といわざるを得ない。

 この点について、会見で同席していた民主党の玄葉光一郎・政調会長は「率直に国民にお詫びしたい」と語った。正直な対応といえる。しかし、総理・党代表である菅からは、マニフェスト修正について一言も説明がないまま終わってしまった。菅本人が公約、そして自身の発言の重さをどこまで認識しているのか、疑問に思えてくる。

 03年にマニフェストをこの国で初めて導入したのが他ならぬ菅だったことを考えると、なおさらだ。総理になった今、自身の言葉で説明もせずそれを修正すると言うのであれば、ここ数年のマニフェスト論議はいったい何のためのものだったのだろうか。日本をよりよい国にするための青写真ではなく、政権を取るための「道具」に過ぎなかったのだろうか。

 この男はいったい何を成し遂げたいのか、そしてこの国をどこに導きたいのか、いまだにはっきりしない。

──編集部・横田 孝

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、李成鋼氏を通商交渉官に正式任命 ベセント氏が

ワールド

ベトナム、26年は10%成長目標に 外的圧力でも勢

ワールド

韓国、防衛産業で世界4位目指す 李大統領が研究予算

ワールド

米政府閉鎖19日目、航空管制官の不足で主要空港に遅
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 6
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 9
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story