コラム

「潜り広告」でW杯制したナイキ

2010年06月29日(火)08時00分

 6月14日に行われたW杯のオランダ-デンマーク戦で、オランダのビール会社ババリア社のロゴ入りTシャツを着て応援した数十人の美女集団を組織したとして、女性2人が逮捕・起訴された。国際サッカー連盟(FIFA)の公認ビールはバドワイザーなのに、これは潜りの宣伝活動にあたるとFIFAの見張りに捕まったのだ(6月22日に和解)。

 FIFAスポンサーの宣伝効果が計り知れないほど大きいことは、現代自動車の例でも紹介した。だが公認は、公式パートナーと公式スポンサーを合わせても世界でたった12社と狭き門。しかも一業種一社と決まっているため、選にもれた企業は差をつけられまいと必死で自社ブランドをW杯に潜り込ませようとする。ビジネスウィーク誌によれば、これが「アンブッシュ・マーケティング(潜り広告)」だ(「アンブッシュ」の訳は「待ち伏せ」だが、ここでは個人的実感に近い「潜り広告」にしてみた)。

 ババリア社は例外ではない。消費者の心のなかで何とかW杯と自社ブランドを関連付けてもらいたいと企業が宣伝にかける金は、FIFAが集めるスポンサー料の総額より大きいはず。アディダスに公式パートナーの座を奪われたナイキは02年のW杯から、アディダスがFIFAに支払うスポンサー料に見合う宣伝費で対抗すると決めた。今回は、ロナルドやルーニーといったスター選手を総動員したCM「未来を書こう」を配信、ユーチューブでの閲覧回数は1700万回を超える大成功を収めた。

 ネット視聴率の調査会社ニールセン・メディアによれば、この露出のおかげでナイキはこの1カ月、W杯のどの公式スポンサーよりもW杯を連想させる企業になったという。潜り広告はもはやゲリラ戦ではなく、正規軍の戦いになったということだろう。

 ところでW杯の潜りと見張りと言えばこんな記事も。やはりこのイベント、ただ事じゃない。

--編集部・千葉香代子

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