コラム

ポランスキーをちゃんと裁け

2010年05月18日(火)13時41分


 映画監督のロマン・ポランスキーにもう一つの性的暴行疑惑が持ち上がった。被害を訴えたのは、英女優シャーロット・ルイス(42)。5月14日に記者会見を開き、彼女が16歳のとき、パリのポランスキーのアパートで「最悪の方法で性的虐待を受けた」と述べた。ルイスは86年の映画『ポランスキーのパイレーツ』に出演しており、事件が起きたのはオーディションが行われていた83年のことだ。

 会見でのルイスは性的虐待の詳細は明かさず、記者からの質問も受け付けなかったが、英デイリー・メールに対しては事件の経緯などを語っている。彼女は訴訟を起こすつもりはないが、ロサンゼルスの警察と検察に書面を提出し、ポランスキーの身柄がアメリカに移送された場合は自分の訴えも考慮してほしいと求めたという。

 映画監督という立場を利用して少女に関係を迫った、というルイスの訴えが真実なら、ポランスキーは本当に卑劣な奴。それも少女暴行事件を起こして、アメリカから逃れてきた数年後のことなのだから。

 ご存知のとおり、ポランスキーは1977年3月、俳優ジャック・ニコルソンの自宅で13歳の少女サマンサ・ガイマーに酒と薬物を勧めたうえでセックスをし、逮捕された。強姦など6つの罪に問われた裁判では「未成年との違法な性行為」の罪のみ認める司法取引を行ったものの、判決直前にアメリカからフランスのパリに逃亡(市民権も取得)。以来、アメリカには入国していない。

 そして09年9月、スイスで身柄を拘束された。現在はスイスの別荘で軟禁下に置かれ、アメリカへの身柄引き渡しが待たれている。

 ポランスキー本人は米当局が彼の身柄移送を求めているのは不当だとして、5月初めに「もう黙っていられない」と題する公開書簡を新聞に掲載。米当局を批判し、「公正な扱いを求める」と言っているが、少女をレイプしたうえ裁判の途中で逃げ出した人間がよく言えたものだと思う(事件当時、「合意の上だった」と言っているが、40代の男が10代の少女と結ぶ合意なんてどれほど信用できるものか)。

 しかし理解できないのは、ポランスキーを擁護する声が多く聞こえてくること。例えば――。
■俳優ジョニー・デップ
「(ポランスキーの拘束が)なぜ今なのか? 彼ももう76歳で、かわいい子供と長年連れ添った妻がいる。あまり外を出歩くこともない」(1月、英インディペンデント紙に対して)

■俳優ピアース・ブロスナン
「彼の拘束にはショックだし、がっかりしたし、悲しい。なぜ今ごろになって? 彼の家族や子供たちを思うといたたまれない。彼のためにも、被害者の女性や家族のためにも、この件はもう終わりにしてほしい」(ポランスキーの新作『ゴーストライター』に出演し、2月のベルリン国際映画祭での記者会見で)

■映画監督ウディ・アレン
ポランスキーは「アーティストで、いい人」だし、「過ちを犯して、その代償は払っている」(開催中のカンヌ映画祭で。同映画祭では、ポランスキーの身柄をアメリカに引き渡さないようスイス当局に求める嘆願書が回っており、ジャンリュック・ゴダールを始めとする映画人らが署名している)

 これはおかしくないか?

 ポランスキーももう年寄りだし、事件から33年も経っているのだから許してやったら? と言いたいのだろうか。どんなに素晴らしい作品を撮ろうが、どんなに有名な映画賞を取ろうが、罪を犯した人は法に則って裁かれるべきだ。それとも映画界ではこんな話は日常茶飯事で、スネに傷を持つ人はどっさりいるから厳しく追及したくないのだろうか?

 それならなおさら、ポランスキーはきちんと裁かれるべきだ。

――編集部・大橋希

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

12月FOMCで利下げ見送りとの観測高まる、9月雇

ビジネス

米国株式市場・序盤=ダウ600ドル高・ナスダック2

ビジネス

さらなる利下げは金融安定リスクを招く=米クリーブラ

ビジネス

米新規失業保険申請、8000件減の22万件 継続受
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 6
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story