コラム

中国出身テロリストがシリア軍幹部に抜擢──それでも各国が黙認する理由

2025年05月26日(月)17時45分

こうして外国人戦闘員のなかから新生シリアの正規軍幹部が誕生したのだ。

ただし、この状況に多くの国は懸念を表明しながらも、実際には曖昧に済ませている。


「次は中国の番だ」

例えばアメリカは、外国人戦闘員の排除が確約されていないなか、シリアに対する1970年代以来の制裁を事実上解除した。ヨーロッパもほぼ同様だ。

さらにザヒードの出身国、中国も例外ではない。

中国は冷戦時代からアサド政権と友好的だった。さらにザヒードの立場がオーソライズされれば、ウイグル過激派が活気づきかねない。

実際、ダマスカス陥落直後、ウイグル人戦闘員は「次は中国の番だ」と動画で発信した。

ところが中国政府は「テロ対策の重要性」を強調しつつ、今年に入ってシリア暫定政権との間で投資、貿易などに関する協議を進めている。

各国のこうした反応の一因は、シリア暫定政権による過激派イメージ払拭にある。

HTSをはじめ過激派のなかには「イスラーム国家建設」を標榜する者も珍しくなく、ダマスカス攻略以前、イドリブなどの支配地で女性の権利制限、キリスト教徒など異教徒の弾圧といった人権侵害が目についた。

ところが、暫定政権発足の前後からHTSは方針転換し、少数民族クルド人との協議を進めたり、キリスト教徒の女性を閣僚に加えたりして、新生シリアの建設をアピールしている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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