コラム

なぜイギリスは良くてフランスはダメなのか? 大地震でもモロッコが海外の救助隊を拒む理由

2023年09月15日(金)14時40分
現地に派遣されたスペイン軍の救助隊

現地に派遣されたスペイン軍の救助隊(9月14日、アミミズ) Emilie Madi-REUTERS

<現地で救助活動にあたっているのは、イギリス、スペイン、UAE、カタールの4カ国のチームのみ。フランスをはじめ外国の救助隊の受け入れをモロッコ政府が拒む理由とは>


・北アフリカのモロッコではM6.8の大地震に見舞われたが、海外の救助隊はほとんど活動できていない。

・モロッコ政府は海外の救助隊をかなり限定的にしか受け入れておらず、これが救助を遅らせているという批判もある。

・これは政治的判断によるものとみられ、とりわけ関係の深いフランスからの支援を断ったことはアフリカと先進国の関係の変化を象徴する。

大災害で「海外からの救いの手」が受け入れられるかどうかは政治に左右されやすい。

現場に入れない救助隊

アフリカ大陸の北西にあたるモロッコで9月8日、マグニチュード6.8と推定される大地震が発生し、中部アル・ホウズ州を中心に2600人以上の死者を出した。このクラスの被害は同国で60年ぶりともいわれる。

モロッコ、西サハラの位置を示す地図

地震発生からすでに1週間が経ち、建物の下敷きになったままなくなる人も多い。SNSには惨状を訴える映像が溢れている。

こうした状況にもかかわらず、海外の救助隊はほとんど活動できていない。モロッコ政府は支援物資を受け取っていても、外国の救助隊はほとんど受け入れていないからだ。

災害時であっても、外国の組織が救助活動を行う場合、基本的には当事国の許可が必要になる。軍隊や消防といった公的機関はもちろんだが、NGOなどでも活動が規制されることはある。

東日本大震災の場合、多くの国から救助活動の申し出があったが、日本政府が受け入れたのは結局23カ国のチームだけで、最初に到着したスイスのチームは日本政府の許可がなかなか下りなかったため活動開始を数日待たされた。

モロッコの場合、イギリス、スペイン、UAE(アラブ首長国連邦)、カタールの4カ国のチームだけが作業できている。

この理由についてモロッコ当局は「数多くの救助隊にきてもらっても、コーディネイトできなければ非生産的(counterproductive)だから」と述べている。

震源地に近い地域はアトラス山脈のただなかにあり、たどり着くまでが大変だ。そのうえ、モロッコでは2004年により小規模の地震があったが、その際に数多くの救助隊がやってきて現場がかえって混乱した経験がある。

そのため、理解を示す専門家もある。国際赤十字社のディレクター、キャロライン・ホルトはAPのインタビューに「モロッコ政府の慎重な判断」を尊重すると述べている。

ただし、モロッコにおける救助活動が順調とみる専門家はほとんどいない。死者数が今後さらに増えることが見込まれることもあり、ペンシルバニア大学のカースティン・ブックミラー教授はスピードの重要性を強調する。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

PayPayの米上場、米政府閉鎖の影響で審査止まっ

ワールド

マクロスコープ:高市首相が教育・防衛国債に含み、専

ビジネス

日鉄、今期はUSスチール収益見込まず 下方修正で純

ビジネス

トヨタが通期業績を上方修正、販売など堅調 米関税の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story