コラム

周辺の西アフリカ諸国は軍事介入も示唆──邦人も退避、混迷のニジェール情勢の深層

2023年08月04日(金)14時20分

これに対して、ニジェールの軍事政権を率いるチアニ将軍は「ECOWASやその他の冒険主義者(欧米を指す)に、父祖の地を守る我々の固い決意を繰り返す」と述べ、あらゆる干渉・介入を拒絶する意思を示している。

西アフリカ各国が警戒するもの

それでも、ニジェールのクーデターに早い段階からECOWASが軍事介入まで示唆したことは、これまでにないスピーディーな反応といえる。そこには西アフリカ各国に広がる「クーデターの伝染」への警戒がある。

 
 
 
 

アフリカでは2020年頃からクーデターがドミノ倒しのように各国で発生している。

その背景には、コロナ感染拡大、旱魃などの自然災害、イスラーム過激派のテロなどで生活苦が広がってきたことがあげられる。

その一方で、多くの国では政府高官による腐敗・汚職も目立ち、さらにイスラーム過激派によるテロの拡大にブレーキがかかっていない。

こうした不満を背景にマリやギニアビサウで発生したクーデターが、近隣諸国に波及することは、各国政府にとって由々しき問題だ。

それは政治的立場を超え、ほとんどのECOWAS加盟国に共通する問題と言える。

ニジェールに対する軍事介入の可能性に言及したナイジェリア国防相は「我々の決定は民主主義へのコミットについての強いメッセージを発信する」と述べ、民主主義を否定するクーデターを認めない、と主張した。とはいえ、ECOWAS加盟国には必ずしも民主的といえない国も少なくない。

しかし、「自分たちの立場が軍事的にひっくり返されるかもしれない」という危機感で各国首脳は共通する。

さらにニジェールの混乱が拡大すれば、イスラーム過激派がこれまで以上に台頭する懸念も大きい。それによって難民が増加すれば、欧米よりむしろ西アフリカ諸国にとって憂慮すべき事態となる。

ニジェールのクーデターに対する周辺国の強い反応は、強い危機感の表れといえる。

グローバルな意味とは

その一方で、欧米各国もニジェールのクーデターに強い警戒感を示している。マクロン大統領は「フランスの利益への攻撃には即座に対応する」と警告し、バイデン大統領も「自由かつ公正な選挙(というものがニジェールであったとすればだが)の結果を尊重すべき」と述べて拘束されているバズム大統領の釈放を求めている。

欧米各国にとっても、アフリカでクーデターが相次ぐことは深刻な問題だ。近年相次ぐクーデターでは、政府批判の延長線上に反欧米的主張が噴出することも少なくないからだ。

それは結果的に、イスラーム過激派対策として欧米ではなくロシアの軍事企業ワグネルと契約する国を増やし、ロシアの影響力を拡大させるきっかけにもなってきた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story