コラム

周辺の西アフリカ諸国は軍事介入も示唆──邦人も退避、混迷のニジェール情勢の深層

2023年08月04日(金)14時20分

ニジェールの場合も、世界有数のウラン生産国でありながら、その開発の多くを担うフランス政府系企業アレヴァ(現在はオラノに改称)が利益の大半を握るだけでなく、開発プロセスで膨大な水を消費するため地域住民の生活用水が不足する事態も発生するなどして、しばしば批判されてきた。

ニジェールではこれまでワグネルの活動が確認されていない。しかし、クーデター支持のデモ隊の一部がロシア国旗を掲げるなど、欧米寄りの政権に対する拒絶反応がロシアに接近するきっかけになっている点では、マリやブルキナファソと同様のパターンがうかがえる。

 
 
 
 

そのロシア政府はニジェールのクーデターを批判するECOWASや欧米に対して、「制裁や介入は緊張を和らげる助けにならない」と主張し、むしろニジェールにおける緊急国民対話を呼びかけている。

ECOWAS加盟国でこれに賛同しているのは、マリやブルキナファソなどだけだ。これらの国の政府はワグネルと契約している。

だからこそ欧米は「ニジェールが次のドミノになるのでは」と警戒し、この小国から目が離せないのである。

それは結果的に、ECOWASと欧米の立場が接近することを意味する。

ウクライナ侵攻の後、「アフリカにはロシア寄りの国が目立つ」といった指摘が目立つが、実態は異なる。むしろ、アフリカの多くの国は先進国と中ロのどちらにも取り込まれたくない、とみた方がよい。

つまり、圧倒的に大きな影響力をもつ欧米と距離を保つためのテコとして中ロとも良好な関係を築くが、中ロの引力圏に引き込まれたいわけでもないのだ。

そのため、必要に応じて欧米と立場を共有することは不思議でない。それはあくまで一時的、限定的なものだが、先進国がこうした共通部分でアフリカの多くの国に協力できなければ、その後の関係強化も望めないのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴ

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界

ワールド

イスラエル、新休戦案を提示 米大統領が発表 ハマス

ビジネス

米国株式市場=ダウ急反発、574ドル高 インフレ指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    F-16はまだか?スウェーデン製グリペン戦闘機の引き渡しも一時停止に

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 5

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 6

    「ポリコレ」ディズニーに猛反発...保守派が制作する…

  • 7

    インドで「性暴力を受けた」、旅行者の告発が相次ぐ.…

  • 8

    「人間の密輸」に手を染める10代がアメリカで急増...…

  • 9

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 10

    「集中力続かない」「ミスが増えた」...メンタル不調…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story