コラム

忘れられたミャンマーの人道危機──市民を標的にした攻撃の発生件数はウクライナと大差なし

2023年05月23日(火)14時15分

火に薪をくべる者

5月上旬に開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)の会合でインドネシア代表は、ミャンマー情勢が「分岐点にある」と表現した。

ミャンマーも加盟国であるうえ、ASEANはもともとメンバー国の内政に踏み込まない傾向が強い。しかし、難民増加などに豪を煮やしたインドネシアやシンガポールは、より強いコミットメントを模索している。

さらに、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、ミャンマー軍の責任者の戦争犯罪を国際刑事裁判所(ICC)で追及することを主張している。

しかし、アメリカをはじめ欧米各国はミャンマー向け航空燃料の輸出停止などの追加措置をとったものの、反応は総じて鈍い。

その間にもミャンマー軍は軍備を増強している。国連特別代表は5月初旬、昨年ミャンマー軍が10億ドル相当の兵器を購入していたと報告した。

このうち約4億ドルはロシアからで、軽攻撃機Yak-130なども含まれていた。ミャンマー軍による空爆は、こうしたロシア製機材によって可能になっている。

これに中国とシンガポール(いずれも約2億4500万ドル)、インド(5100万ドル)、タイ(2800万ドル)などが続いた。

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軍事援助だけでなく、巨大なインフラ建設など民生援助も軍事政権を支えている。とりわけ戦闘が激しい地域の一つが、バングラデシュとの国境に隣接する西部ラカイン州だが、ここでは中国とインドがそれぞれ巨大な港湾整備事業を行っている。

「一帯一路」構想においてミャンマーは中国南西部からインド洋に直接抜けるルート上にある。そのため7億ドル以上をかけてチャウピュー港を整備し、これと中国をつなぐ鉄道、道路、パイプラインなどを建設中である。

一方、インドもラカイン州シットウェで4億ドル以上の規模の港湾整備プロジェクトを進めている。ミャンマーはインド北東部から海洋に抜ける道筋であり、インドにとっても戦略上の要衝だ。そのため、中国が整備する港から100kmほどしか離れていないシットウェで、インドの巨大プロジェクトが進行中なのである。

こうした投資でミャンマーの景気が多少回復しても、むしろ軍事政権に「国土の一部を焦土にしてもトータルでプラス」と判断させやすい。言い換えると、外部の民生資金もまた「忘れられた人道危機」をあおる結果になっているのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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