「アラブの春」から10年──民主化の「成功国」チュニジアに広がる幻滅
中東・北アフリカでも事情は同じだ。
10年前にチュニジアで「アラブの春」の引き金となった大規模な抗議デモが発生したのは、2008年のリーマンショックで物価が乱高下し、人々の生活が極度に悪化していたことを大きな原因とした。さらにその後、原油価格の急落を受けた景気悪化で、2年ほど前からは周辺のスーダンやエジプトでも抗議デモが拡大しており、このうちスーダンでは2019年4月、この国を30年以上にわたって支配したバシール大統領が失脚している。
自由で民主的であるがゆえの幻滅
ただし、周辺国と比べてもチュニジアでは政府への不満が大きくなりやすい。
実際、世界価値観調査によると、政府を「あまり」「全く」信頼しないと回答した割合はチュニジアで80%を超えた。これは「独裁者」エルドアン大統領によってSNSなどが制限されているトルコや、アメリカがことさら敵視するイランなどをはじめ、多くの周辺国をしのぐ。
自由で民主的な国ほど政府への信頼が低くなりやすいことは、世界全体にも共通するパターンだ。
自由で民主的であることは、「政府が国民のことを考えて当たり前」と思いやすくする。しかし、政治体制と経済パフォーマンスが一致するとは限らない。言い換えると、自由で民主的な国の方が経済成長に適しているという証拠はない(独裁的であれば国民生活がよくなるとも断定できないが)。
逆に、自由でも民主的でもない中国などで「政府をあまり(あるいは全く)信頼していない」という回答が少ないのは、監視の目を恐れてという理由もあるだろうが、 最初から「政府が国民のことを考えて当たり前」と思っていなければ、少しでも政府から恩恵があった時に、先進国では考えられないほど政府を高く評価しても不思議ではない。
確かなことは、期待が高いほど、それが実現しなかった時の幻滅が大きいということだ。期待ほどの利益が得られない状態は「相対的剥奪」と呼ばれるが、最初から利益を期待できない場合より不満が募りやすい。つまり、自由で民主的であることは、政府への期待を抱きやすいがゆえに裏切られた感覚も強くなりやすい。
10年前、生活苦への不満を背景に自由で民主的な体制を勝ち取ったチュニジアでは、「独裁から解放されたのだから自分の生活はよくなって当たり前」という期待が大きかっただけに、「裏切られた」幻滅が大きいといえる。「アラブの春」の優等生チュニジアが陥った騒乱は、自由と民主主義がグローバルスタンダードになった現代に現れやすい反動の一つなのである。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
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