コラム

ウイグル人と民族的に近いトルコはなぜ中国のウイグル弾圧に沈黙しがちか

2019年12月12日(木)19時15分

トルコのイスタンブールで行われた反中デモで、中国の国旗を焼くウイグル人(10月1日) Huseyin Aldemir ーREUTERS


・ウイグル人を弾圧する中国政府に対して、ウイグル人と民族的に近いトルコは、これまで中国批判の急先鋒だった

・しかし、ここにきてトルコ政府はウイグル問題に沈黙しがちで、そこには経済の失速で中国との関係を重視していることがある

・さらに、ウイグル人過激派によるテロへの警戒も、トルコ政府の静けさにつながっている

ウイグル自治区での弾圧をめぐり、アメリカ議会が中国政府への制裁法案を可決するなど国際的な注目が集まるなか、これまでこの問題で中国を激しく批判してきたトルコは静かだ。それは民族としての結びつきより国家の利益を優先させているからといえる。

中国への寛容さ

アメリカは中国に対する「人権カード」を切り続け、香港に次いで新疆ウイグル自治区での弾圧にも批判を強めている。

しかし、人権問題で中国を批判しているのは(いつものことだが)欧米の政府にほぼ限られる

10月末に開かれた国連総会第三委員会では、この問題が取り上げられ、欧米を中心に23カ国が中国を批判した。これに対して、開発途上国など54カ国は中国政府による「ウイグル自治区の管理」に理解を示した。

開発途上国には植民地支配の経験などから、もともと国内問題に干渉されることへの抵抗感が強く、さらに程度の差はあれ、多くで反体制派が封じ込められている。そのため、1989年の天安門事件でも、ほとんどの開発途上国は中国政府の立場を支持した。

その一方で、目を引くのは、ほとんどがムスリムであるウイグル人の弾圧に対して、イスラーム諸国が総じて寛容なことだ。とりわけ目立つのは、トルコの静けさだ。トルコはイスラーム諸国のなかでも特に、ウイグル問題で一貫して中国を批判してきたからだ。

トルコの沈黙

ウイグル人は8世紀までにユーラシア大陸を横断して今の中国西部に定住したトルコ系遊牧民の子孫にあたる。

民族としての結びつきから、これまでトルコはウイグル人を支援してきた。1954年、在外ウイグル人が分離独立を求める組織「東トルキスタン亡命者協会」をトルコのアンカラに作ったことは、その象徴だ。これはその後、世界各地で発足するウイグル人組織の先駆けとなった。

特に現在のエルドアン大統領はトルコ・ナショナリズムを強調し、ウイグル問題でもしばしば中国政府を激しく攻撃してきた。2009年にはウイグル問題が「大量虐殺」に当たると批判し、中国との緊張が高まった。

ところが、ウイグル問題が世界的にクローズアップされるなか、近年ではトルコの口撃はトーンダウンしている。今年7月、トルコ政府はウイグル自治区の状況を視察する代表団の派遣を発表したが、その報告などは明らかにされていない。

中国への期待

エルドアン大統領がウイグル問題に静かである大きな要因として、中国の経済力への期待がある

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story