コラム

リラ急落で中国に急接近するトルコ──「制裁を受ける反米国家連合」は生まれるか

2018年08月24日(金)15時03分

7月に南アフリカのヨハネスブルグで行われたBRICSサミットで会談したトルコのエルドアン(左)と中国の習近平 Cem Oksuz/ REUTERS

<トランプに関税引き上げや経済制裁でいじめられている大国同士、中国、トルコ、イラン、ロシアなどが反米で手を組んだらどうなる?>


・トルコ・リラ急落の直接のきっかけは、アメリカがトルコ製品に対する関税を引き上げたことにある

・リラ急落後、トルコ政府は中国に協力を呼びかけている

・当の中国は、アメリカとの貿易戦争の行方をにらみながら、トルコとの関係強化に進むかを判断するとみられる

アメリカが相手構わずふっかける貿易戦争は、中国にチャンスを与えるものかもしれない。

8月10日にトルコ・リラが急落して以来、トルコ政府はロシアやイランだけでなく、中国との経済協力を模索している。アメリカが反米的な国を経済的に追い詰めるほど、それらは結束しやすくなり、中国の動向はそのカギを握ることになる。

リラ急落のきっかけとしての制裁

8月10日からのトルコ・リラ急落には、アメリカのゼロ金利政策の解除でドルが新興国から引き上げ始めたことや、独裁化の傾向を強めるトルコのエルドアン大統領が、7月に財政・金融の責任者に娘婿を据え、海外投資への規制を強化したことなど、いくつかの伏線がある。

しかし、直接的なきっかけは、10日にアメリカ政府がトルコの鉄鋼・アルミニウム製品に対する関税を2倍に引き上げたことだった。

トルコはNATO加盟国で冷戦時代からアメリカと同盟関係にあるが、近年の両国はいくつかの問題をめぐって対立してきた。

・エルドアン政権によるメディア規制などの人権侵害

・シリア内戦でアメリカがクルド人を支援していること(クルド人はトルコ国内でも分離独立を要求しており、トルコ政府は彼らを「テロリスト」と呼んでいる)

・2016年7月にトルコで発生したクーデタの首謀者とみられるフェトフッラー・ギュレン師がアメリカに亡命していること

これらに加えて、最近では両国政府は、トルコ当局によってテロ容疑で自宅軟禁にされているアメリカ人牧師の解放をめぐって対立している。

関税引き上げは、この背景のもとで行われた。つまり、この関税引き上げは、アメリカの貿易戦争の一環であると同時に、NATO加盟国でありながら反米的なトルコに対する制裁でもある

「汚れた枢軸」

そのため、リラ急落後、エルドアン大統領は「アメリカが後ろから刺そうとしている」、「同盟関係が危機にある」とアメリカを批判。これと並行して、エルドアン大統領はアメリカとの取り引きを減らすことに言及している。

もともと、アメリカとの対立が徐々に深まっていたエルドアン大統領は、2016年12月段階で既にアメリカに代わって中国、ロシア、イランとの取り引きを増やす考えを明らかにしていたが、リラ急落の翌11日に再びこの考えを示した。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story