コラム

シリア攻撃で米国が得たもの──「化学兵器使用を止める」の大義のもとに

2018年04月16日(月)14時00分

国内へのアピール

第三に、国内へのアピールです。

クリミア危機などでみられた、プーチン大統領の強硬な外交・安全保障政策を背景に、米国では反ロ感情が広がっており、2017年の調査では「ロシアの力と影響力は我が国にとって主な脅威である」という回答は、米国市民の47パーセントにのぼりました(世界平均は31パーセント)。

のみならず、2016年大統領選挙での「ロシア疑惑」をめぐり、トランプ大統領は守勢に立たされています。4月10日にホワイトハウスは、この問題を調査するムラー特別検察官を解任する権限が大統領にあると明言。しかし、実際にそれをすれば、疑惑をさらに深め、トランプ氏の支持をこれまで以上に危うくしかねません。

その意味で、中間選挙を控え、公約の多くを実現できていないトランプ大統領にとって「ロシアと対抗する」ことは、支持を獲得する有効な手段といえます。その効果は、「アサド政権による化学兵器の使用」という、保守とリベラルを越えた支持を得やすい大義があることで、さらに大きくなるとみられます。

米ロ対立のエスカレート

こうしてみたとき、「化学兵器の使用は認められない」という人道上の大義に基づくミサイル攻撃は、いくつかの伏線のうえに成り立っているといえます。トランプ政権にとってそれらの目標が首尾よく達成できるかは不透明ですが、少なくともそれらと引き換えに行われたミサイル攻撃の余波は、北朝鮮情勢を含め各国に及ぶとみられます。

なかでも、今回の攻撃がロシアとの緊張をこれまでになく高めたことは確かです。プーチン大統領はこの攻撃を「国家の主権の侵害で国連憲章に違反する」と非難。米英仏はロシア軍の施設を回避して攻撃した模様ですが、それでも双方の軍事行動がこれまでにない近距離で行われています。これは第二次世界大戦後、米ロが最悪の緊張状態に突入したことを象徴しており、今後も各国は予断なく注視する必要があるといえるでしょう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

IMF、世界成長率を下方修正へ 金融支援需要は最大

ビジネス

米2月PCE価格指数、0.4%上昇に伸び加速 利下

ワールド

レバノン国連平和維持要員への攻撃を非難、EUと63

ワールド

エネルギー市場の深刻なストレス低下の公算、米イラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポケモンが脳の発達や病気の治療に役立つかも
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 6
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 7
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 8
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 9
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 10
    「嬉しすぎる」アルテミスII打ち上げのNASA管制室、…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 9
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 10
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story