コラム

あきれるほど殴る蹴る ちぐはぐで奇天烈、でも刺激的な映画『けんかえれじい』

2022年08月04日(木)13時30分

ならばけんかに明け暮れた麒六は、その後に本格的な暴力に自らを埋没させるのだろうか。しかし映画は、このラストに至る過程に奇妙なシーンを入れる。福島まで麒六を訪ねてきた道子が、その帰りに狭い道で出会った兵士たちの行軍に、暴力的に突かれ倒されるのだ。

ここで示されるのは軍事力への痛烈な批判。アイロニーが二転三転している。おそらくは新藤の脚本と鈴木の美学の衝突なのだろう。清順の実験映画的な編集も含めて、とにかくちぐはぐで奇天烈で、でも刺激的な映画であることは確かだ。

magmori220804_2.jpg『けんかえれじい』(1966年)
監督/鈴木清順
出演/高橋英樹、浅野順子、川津祐介、片岡光雄

<本誌2022年8月9日/16日合併号掲載>

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

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